3ヶ月後、浩人は退院した。薬の治療方針を調整し、病状はひとまず安定した。医師によると、今の状態は予想していたよりも良好だという。ただ、これからも定期的な検査は必要だった。彼は東町のあのアパート――私たちの部屋に戻った。「私たちの」という言葉を口にしたのは、彼のほうだった。この3ヶ月間、部屋には誰も住んでいなかった。ベランダの多肉植物には、晴香が何日かおきにやって来て、水をやってくれていた。今日、久しぶりにドアを開けると、その鉢はベランダで以前にも増して青々と茂っていた。その日の彼は、キッチンで料理をしていた。私はドア枠にもたれ、彼が野菜を切るのを眺めていた。ジャガイモを細切りにする彼の手つきは、相変わらずひどかった。太さはバラバラで、細切りというより、細い棒と太い棒が入り混じっている。「私にやらせて」見ていられなくなって、私は言った。「いい。自分でやる」「それのどこがジャガイモの細切りなの?ジャガイモの棒切りでしょ」「思乃、俺のこと嫌いになった?」「ずっと嫌いだよ。初めて塩と砂糖を間違えて料理に入れた日から、ずっと嫌い」彼が笑った。心からの笑顔だった。口元が上がり、目尻には細かな皺が浮かび、瞳には光が宿っている。こんなふうに笑う彼を見るのは、本当に久しぶりだった。夜、私たちはベランダに座って星を眺めた。東町には高い建物があまりなく、空がよく見える。小さな夜空が、頭上に広がっていた。「思乃」「ん?」「ずっと言ってなかったことがある」「また何か隠してたの?」彼は少し躊躇してから、ポケットから小さな箱を取り出した。私の呼吸が一瞬止まった。「プロポーズじゃないから」私の表情を見て、彼は慌てて言った。「緊張しないで」「じゃあ、なんで箱なんて出すの?」彼が箱を開けた。中には、銀色のシンプルな指輪が二つ入っていた。とても素朴なデザインで、ダイヤもなければ、模様もない。けれど、内側には文字が刻まれていた。私は手に取って、顔を近づける――『帰処』という文字だ。「これ、確定診断を受けたあとに作ったんだ」彼は静かに言った。「あの頃は、もし俺がいつか耐えられなくなったとしても、せめてこれだけは君に残したいと思ってた。君が俺の帰処だっ
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