「いなくなるって?」恭司は一瞬固まり、すぐに冷ややかに笑った。「死んだってことなら、いいんだが」配信の進行役は少し黙ったあと、恭司の後ろを指さした。大きなスクリーンに、私の顔が映し出された。画面の中の私は、カメラのレンズを手のひらで叩いた。雨に濡れた髪とシャツが肌に張りつき、見るからにひどい格好だった。声には苛立ちがにじんでいる。「もう撮らないで。撮っていいなんて言ってないから」続いて、少し低く響く男の声が、真剣な口調で聞こえてきた。「本当に騙そうとしてるわけじゃありません。いろいろな人の暮らしを取材して、動画にしてるんです。僕なら、力になれるかもしれません」ごみ箱の前から振り返り、カメラに顔を近づけた。「そう。じゃあ、私のがんも治せる?」片瀬智哉(かたせ ともや)は一瞬、言葉を失った。口元をゆがめ、笑い声を漏らした。「私なんかに構っても無駄だよ。ほかの人を探して」「でも……僕にできることがあるかもしれません!」立ち去ろうとする私を、智哉が引き止めた。私は智哉を上から下まで眺めた。ぷっと吹き出し、シャツ、ベルト、ズボン、靴の順に指をさした。「400円、1200円、800円、1000円。それから、そのカメラも中古で買ったんでしょ?私の治療に、いくらかかるか知ってる?」カメラに向かって片手を広げた。「1000万円」智哉が息を呑んだ。笑って背を向けると、雨の中を歩きながら、ごみ箱を一つずつのぞき込んだ。「クロ?クロ、どこにいるの?」智哉はあとを追ってきた。「何を探してるんですか?」「犬」「飼ってる犬ですか?」「違う。さっき発作で倒れたとき、顔をなめて起こしてくれたの」智哉は何も言わなかった。私は顔を上げた。「もう行って。ほかに助けられる人はいくらでもいるから、私なんかのために時間を無駄にしないで」手でカメラのレンズを覆った。画面が真っ暗になった。……【来世ーー2023年10月11日、午前9時32分ーー藤堂家の令嬢は誰の同情も必要としない】「藤堂詩乃(とうどう しの)さんですよね。藤堂恭司さんの妹で、間違いありませんか?」カフェの厨房で床を掃いていた私は、眉をひそめた。「どうしてまた来たの?」カメラの後ろから、智哉の声がした。
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