All Chapters of 娘が「ママ」と呼ぶ女を、私は知らない: Chapter 11 - Chapter 12

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第11話 ヒステリックな妻

「声を大きくしないでくれ」 悠人は静かに真帆を制した。その顔には怒りではなく、どこか落胆したような色が浮かんでいた。「七海が聞いてるだろ」「答えてよ! なんで秘密にしなきゃいけなかったの!」「だから、サプライズのつもりだったんだよ」 悠人は両手をテーブルの上で組み、真帆の興奮を宥めるようにゆっくりと語りかけた。「沙耶さんはプロの造形作家だ。七海の八歳の誕生日に、三人で大きなキャンバスに手形を押した記念の作品を作ろうって計画してたんだ。真帆を喜ばせたくてね。七海には『ママに言ったら驚きがなくなっちゃうから、内緒にしておこうね』って言ったんだよ。『悲しむから』なんて言い方はしていない。七海が勝手にそう解釈しちゃったんだろ」「そんなの……」「真帆、君はいつもそうだ」 悠人がふっと、悲しそうに目を伏せた。「僕が家族のためにやっていることを、全部悪い方に取ってしまう。君が最近仕事でイライラして、余裕がないのは分かってるよ。でもね、そうやって僕の言うことを何でも疑って、ヒステリックに攻め立てられたら、僕もどうしていいか分からないよ」「私が……ヒステリック……?」「そうだよ。ほら、自分の声の大きさに気づいてる?」 言われて、真帆はハッと息を呑んだ。 確かに、自分は叫ぶように声を張り上げていた。それに対して悠人は、終始穏やかで、冷静で、常識的なトーンを保っている。 外から見れば、理不尽に怒りをぶちまけているのは自分の方だった。「パパ……ママ……?」 廊下の影から、七海が不安そうに顔を覗かせていた。 抱きしめているクマのぬいぐるみを、ぎゅうぎゅうと力任せに握りしめている。「お喧嘩……しないで……」「七海」 悠人がすぐに立ち上がり、膝をついて七海に目線を合わせた。「ごめんね、喧嘩じゃないよ。ママがちょっとお仕事で疲れてて、パパと
last updateLast Updated : 2026-08-29
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第12話 会わせない方がいい

 暗い寝室で、真帆はベッドの中に横たわっていた。 シーツの冷たさが肌に刺さる。 頭が重く、こめかみが痛んだ。 本当に、自分が考えすぎなのだろうか。悠人の言う通り、サプライズの計画を子どもが誤解して、自分が過剰に反応してしまっただけなのだろうか。 仕事の残業が増えていたのは事実だ。七海と過ごす時間が減り、どこかで母親としての罪悪感があったから、余計に「知らない女」の存在に過敏になっているのかもしれない。 暗闇の中でスマートフォンが小さく震えた。 画面を点灯させると、LINEの通知が表示されていた。 差出人は、妹の長谷川菜月(はせがわ・なつき)だった。『お姉ちゃん、最近どう? 元気にしてる? 来週あたり久々にランチでも行かない?』 菜月からの何気ないメッセージ。 真帆は画面を見つめたまま、フリック入力の画面を開いた。「実はね、悠人が……」 そう打ちかけて、指が止まる。 なんて書けばいいのだろう。「夫が娘を謎の女性に会わせていて、二人で秘密にされていた」 そんなことを送ったら、菜月はなんて返してくるだろう。「それって不倫じゃないの?」と騒ぎ立てるか、あるいは「お姉ちゃん、疲れてるんじゃない?」と心配されるか。 もし、本当に悠人の言う通りただの勘違いで、自分がヒステリックになっているだけだとしたら。妹にまで無用な心配をかけ、悠人を悪者にしてしまうことになる。 証拠は何もないのだ。 青い髪留めも、絵本も、付箋も、すべて悠人の「良かれと思ってやった説明」で上書きできてしまう程度のものだ。 真帆は打ちかけた文字をすべて消去した。『連絡ありがとう! 元気だよ。ちょっと最近仕事が立て込んでてバタバタしてるんだ。また落ち着いたらこっちから連絡するね』 送信ボタンを押すと、画面はすぐに暗転した。 頼れるはずの肉親にすら、本当のことが言えない。 自分で自分を追い詰めているような感覚に胸が苦しくなり、真帆はスマートフォンをナイトテーブルの上に置いた。 リビ
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