「水瀬先生から、大学を案内してほしいと頼まれたんです」理玖が朱莉の持つ画材を受け取ろうとしたが、朱莉はさりげなく避けた。「本当にありがとう。でも、用事があるなら気にしないでください。私一人でも大丈夫ですから」遠回しに厚意を断った。拒まれていることに気づきながら、理玖は結局、朱莉から画材を受け取った。「ちょうど実験が一区切りついたところです。次の段階はまだ急がなくていいので、大学を案内する時間くらいあります」親切にしてくれるのは、父から頼まれたためだと思った。「お父さんには何も言いませんよ。本当に用事があるなら、私のことは気にしなくていいですから」理玖は足を止め、朱莉を見た。「先生に頼まれたから、仕方なく付き合っていると思ってるんですか?僕が朱莉さんと一緒に歩きたいから、とは思わないんですか?」その言葉の真意を測りかね、朱莉は黙ってあとをついていった。理玖は油絵を学ぶ学生がよく利用する施設を丁寧に案内した。朱莉が疲れたと気づけば、カフェや芝生へ連れていき、休ませてくれた。「今日は本当にありがとう……」言い終える前に、理玖が叫んだ。「危ない!」この日はスケートボードサークルが活動しており、二人がいた場所はその練習場所に近かった。ボードに乗った学生が勢いよく、朱莉のほうへ突っ込んでくる。突然のことに、朱莉はその場で動けなくなった。理玖は朱莉を抱き寄せ、自分の背中で相手を受け止めた。スケートボードに乗っていた学生は、何度も頭を下げた。朱莉が理玖の様子を尋ねようとしたが、先に聞かれた。「大丈夫ですか?けがは?」その目には、本気の心配が浮かんでいた。なぜ自分の体を張ってまで守ってくれたのか、朱莉には分からなかった。「私は大丈夫です。神谷くんは?」無事だと聞いて安堵した理玖は一歩踏み出した途端、すねの痛みに息をのんだ。「どうしたんですか?けがをしたんですか?」先ほど柱の角にぶつけたらしく、理玖のすねが切れていた。さっきまで謝っていた学生は、いつの間にかいなくなっている。「保健センターへ行きましょう。かなり痛そうです」理玖は大丈夫だと断るつもりだったが、朱莉の心配そうな目を見ると、すぐにうなずいた。「お願いします」朱莉は理玖を大学の保健センターへ連れていっ
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