見知らぬ街の風は、頬に少し冷たく感じられた。未知瑠がスーツケースを引いて空港を出たとき、ふと空を見上げた。深く息を吸い込み、肺の奥底に淀んでいた重苦しい空気を、ゆっくりと吐き出す。それからタクシーを拾い、前もって予約しておいたアパートへ向かった。1LDKの部屋は家具も簡素で、窓は北向きだったが、きれいに整えられていた。不動産会社で契約を済ませ、敷金や初月分の家賃などの初期費用を支払うと、担当者から鍵を渡された。「建物のすぐ近くにスーパーがありますので、日用品などはそちらで大体揃いますよ」未知瑠は小さく頷き、スーツケースを引いて新しい部屋へ向かった。2日かけて荷物を整理した。スーツケースの中の着替えをクローゼットにかけ、スーパーでシーツや洗面用品を買い揃えた。古いスマホからSIMカードを抜き、新しい番号のSIMカードに差し替えた。古いSIMカードは引き出しのいちばん奥にしまい、それきり触れなかった。3日目、新しい会社に出社した。この会社は、彼女がまだ地元にいた頃から、すでに3度もスカウトのメールを送ってきていた。部長自らが電話をかけてきて、彼女の経歴がぴったりだと、一度話を聞かせてほしいと言っていた。けれどあの頃はまだ結婚式の準備中で、和智と地元の街に残って暮らすつもりだったから、すべて丁重に断っていた。巡り巡って、結局こうしてここに来ることになるとは。入社初日、会社の前に立ち、行き交う見知らぬ顔と、まったく馴染みのない環境を眺めながら、ふと現実感が薄れるのを感じた。彼女はため息をつき、心の中で自分に言い聞かせた。あの街のすべては、今日から完全に忘れよう。仕事は想像以上に忙しかった。新しい会社は仕事の進みが速く、次々と新たなプロジェクトを任される。昼間はほとんど他のことを考える暇もなかった。夜、アパートに戻ってシャワーを浴びると、ベッドに横たわり、時々天井をぼんやり見つめる。それから電気を消して眠りについた。たまに道を歩いていると、寄り添って歩くカップルを見かけることがあった。未知瑠は無意識のうちに一瞬だけ長く目を留め、それからすぐに視線を逸らし、首を振って、その光景を頭の中から振り払った。古い番号には着信拒否の設定をしていたが、履歴には拒否された着信が次々と残っていた。数百件もの着信履歴
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