外へ出る途中、結月のそばを通り過ぎても、涼介は一瞥すら向けなかった。ただ、自分の秘書兼ボディガードである桐山明(きりやま あきら)を呼び入れ、冷ややかに言いつける。「あいつを見張っておけ」明は頷いた。「はい」涼介が出ていくと、明は入口に立ち、結月に申し訳なさそうな視線を向けた。もし結月がここから出てしまえば、叱られるのは明だ。明はいい人で、これまで何度も自分を助けてくれた。だからこそ、自分のせいで明を巻き込みたくはなかった。結月はソファに腰を下ろすと、スマートフォンを取り出し、パズルゲームを始めた。それを見た明は少し考え、外へ出てスタッフに頼み、保冷剤を二つもらってきた。一つは春奈の付き添いのスタッフに、もう一つは結月に渡す。結月は受け取って礼を言い、保冷剤を頬に当てた。涼介がいなくなった今、春奈の涙を気にする者は誰もいない。春奈は涙を拭うと、不意に笑った。「私があなただったら、厚かましく涼介に縋りついたりしないわ。もう離婚したんだから、さっさと涼介の妻の座を明け渡したら?」結月は頭のてっぺんからつま先まで、春奈を眺め回した。「知らないの?」春奈の笑顔が止まる。「何が?」「厚かましいのはあんたと涼介でしょ。一人はしつこくまとわりついて私を離さない。もう一人は自ら進んで愛人に収まってる――」結月の言葉に、春奈の顔からさっと血の気が引いた。どの一言から反論すればいいのか、一瞬で分からなくなる。ようやく言い返す言葉を思いついた頃には、すでに絶好の反撃の機会を逃していた。ほどなくして、岳人の秘書がやって来て、春奈に岳人のもとへ来るよう告げた。春奈はさっきまでの憂鬱な表情を一変させ、勝者のような傲慢さを浮かべながら立ち上がる。そして、ゆっくりと結月の前まで歩み寄ると、二人にしか聞こえない声で言った。「あんたがどれだけ必死に私を嵌めようとしたって、どうってことないわ。涼介が全部片づけてくれるもの。結月、あなたのすべては私のもの。そしてあなたは、一生私の身代わりでしかない。涼介の妻の座も、いずれは私のものよ」結月の指先がぴたりと止まった。ゲームが終わった。春奈は小さく笑うと、勝ち誇ったようにその場を後にした。明が歩み寄り、困ったように告げる。「奥様、社長が車の中で待つように
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