「――入金を確認しました。400万円」機械的なアナウンスが、薄暗いホテルの一室に響き渡った。窓の外では、空に残っていた最後の夕焼けも、ゆっくりと沈み始めていた。小湊結月(こみなと ゆづき)は震える手でボタンを留めていた。入金を知らせる声を聞いた瞬間、涙が音もなく床へ落ちた。服は脱ぐより、着るほうが難しい。そして結月の面子も尊厳も、一時間前に宮野慎也(みやの しんや)の元を訪れた時点で、すでに跡形もなく捨て去っていた。背後から、男の憐れむような声が聞こえた。低く、掠れた声だった。「子供のために、もう少しましな納骨先を用意してやれ」結月は舌先を強く噛んだ。血の味が口の中いっぱいに広がる。「ありがとう」どんな理由であれ、こんな時だけは相手に感謝していた。ベッドに横たわっていた慎也が煙草に火をつけた。短く刈り込まれた髪、左眉にある途切れた傷。それだけでも、彼はひどく凶暴で恐ろしげに見えた。結月が体に残った無数の痕を服で再び覆い隠していくのを見ながら、慎也は目を細め、少しからかうような口調で尋ねた。「俺たちの関係を、あいつに知られるのが怖くないのか?」結月の体が一瞬、強張った。「好きにすれば」あいつ――慎也が言っているのは桐山涼介(きりやま りょうすけ)だと、結月には分かっていた。だが、知られたところで何になる?あの人が気にかけるはずがない。涼介は想い人をなだめるのに忙しく、自分の生死など、彼の眼中にないのだ。もし涼介が少しでも昔の情を覚えていて、桐山家の若様という立場からほんの少しでも手を差し伸べてくれていたなら、自分だってここまで追い詰められることはなかった。それに、自分と涼介は三年前にはすでに離婚している。ただ、世間には公表していないだけだった。結月は鏡に向かい、服を整え、乱れた髪をきちんとまとめた。せめて、娘の最後を見送る時だけは、きちんとした姿でいたかった。振り返って自分のスマートフォンを手に取ろうとした瞬間、手首を慎也に掴まれた。慎也はゆっくりと煙を吐き出し、逆光の中で結月の顔を見つめた。その表情からは、何を考えているのか読み取れない。「結月、だったらこれから俺についてくれば……」「慎也」結月は手首を強く引き抜いた。目尻はまだ
Read more