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Todos los capítulos de 欠けるほど、光る: Capítulo 11 - Capítulo 20

28 Capítulos

#4

明くる日は雨。こうなると全ての予定が泡と消える。「ふぅ……」ベッドに横たわり、宙は真っ白な天井を見上げた。幸い在宅ワークの為、パソコンの前には移動できる。ベッドから這いずり、体の節々が痛むのを堪え、できる限り今日のタスクを進めた。着替えをして通勤するというプロセスがないのは本当に有り難い。しかしそれ以上に助かるのは、やはり一人しかいない空間で仕事ができる、ということだろう。周りに同僚が大勢いるのが当たり前で、会話もするし連携もする。だが体調が悪い時、気付かれないよう気を張る必要がある。人の目に晒されてるから頑張れることもあるが、体調不良のときは完全に独りの方が耐えられるタチだ。その心情を汲み取ってくれた叔父には感謝してもしきれない。カーテンを閉めても雨の音は聞こえる。途中からイヤホンをして、独りの世界に引きこもった。「いつつ……」夕方頃、ようやく重い腰を上げた。座り過ぎは良くないから軽いストレッチをして、テーブルに置いていたスマホを手に取る。するとちょうど一件、メッセージが届いた。「今夜行ってもいいですか? ……か」透夜だ。近頃は急の予定も言ってくるようになった。ただ、再会してから初めての雨の日。少し迷ったが、いつもよりは具合が良いので了承の返事を送った。透夜も仕事終わりで疲れてるだろうし、せっかくだから何か夕飯作っとくか。何も買ってこなくていいからと返信し、思い立ってキッチンへ向かったのだけど……。「こんばんは……って、宙さん! 大丈夫ですか!?」三時間後。インターホンを鳴らして出てきた宙が顔面蒼白でフラついている為、透夜は持っていた鞄を落として彼を支えた。「だ、大丈夫。何か飯作ろうと思ったんだけど、立ちくらみやばくて……」「無理しないで休んでてください。俺が代わりに作りますから!」透夜にベッドまで連れていかれ、寝かせられる。彼は上着を脱ぎ、袖を肘までまくった。「雨だからしんどいだろうと思って、一応インスタント系は買ってきたんですけど。夜は何を作る予定だったんですか? 引き継ぎます」「いや、疲れてるんだからいいよ。出前でもとろう」「でも……せっかく宙さんが途中まで作ってくれたから」彼は下に屈んで呟いた。一瞬、瞳の色が揺れて見えたが……すぐに顔を上げ、優しく微笑んだ。「大丈夫ですよ。俺、宙さんに会えて疲れなんか吹
last updateÚltima actualización : 2026-09-11
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#5

透夜は静かに呟き、目を眇める。心から願うような、慈しみのある声音だった。こそばゆくてどうしてやろうかと思ったが、彼が中々手をつけないので、餃子を箸で差し出した。ちょっと行儀悪いけど、誰もいないからセーフということにしてほしい。「ほら。あーん」いつかのように透夜の口元に持っていくと、彼はパクッとひと口で餃子を食べた。「どう。美味い?」「熱いです」「味じゃないんかい」まぁ焼きたての餃子は劇薬に近い熱を持ってるから仕方ない。水を入れたコップを彼に手渡した。「何か思い出すなー。昔俺も、いきなり餡饅を口の中に放り込まれて火傷負わされたことある」「誰がそんな酷いことしたんですか!?」「誰だっけな……」お前だ。心の中でのみツッコみ、白飯をかき込む。高校生だった彼に悪気はないし、図らずも今の餃子で痛み分けできたからチャラにしとこう。「それにしても、宙さんは料理上手いですね。全部すごく美味しいです」「はは、簡単なもんだけどな。お前は家で料理するの?」「全くしません」清々しいほどの即答っぷりだ。さっきのキラキラした目は初めて挑戦するという好奇心からくるものだったんだな。「俺も偉そうなことは言えないけど、とりあえず自分が食べれたらそれで良いんだ。一人暮らし始めたら嫌でもできるようになる」「そうか。……そうかも。ありがとうございます」少し考えて、透夜はにっこり笑った。「役に立つどころか迷惑かけちゃったけど、今日来て良かったです。宙さんが作ったご飯を食べられたから」「ん……」叶うなら、この笑顔をずっと見ていたい。いつも機械的に食べるだけだけど、今夜は笑ってしまうぐらい食べるのが遅かった。ちょっとでもこの時間が続いてほしい。そんなささいな願いだけが、胸の中にきらきらと光っている。「良かった、雨やんでますね」廊下へ出て、夜空を見上げる。透夜は傘を留め具で縛り、俺の方を振り返った。「ご馳走様でした、宙さん。まだ辛いでしょう。ここで大丈夫ですよ」外まで見送りに行こうとしたが、無理やり止められる。俺の部屋が二階なので、大丈夫と言い張り階段までついていった。「本当に無理しないでくださいね」「大丈夫だよ」「本当に? あまり前に出て階段から落ちないか心配です」「落ちない落ちない」むしろこっちをガン見して、足元見ずに降りていく彼の方が
last updateÚltima actualización : 2026-09-12
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#1

叔父の台詞には、いくつかの背景が感じ取られた。すなわち彼の他に俺の味方はいない、と暗に言っている。タブレットを台に乗せ、画面を見据えた。「あの人達に言うつもりですか」『安心しろ。会う予定もない』母の弟である紫信は、その実姉と仲が良くない。それなのに甥である自分のことを気にかけてくれている為、確かに一番の理解者であり、恩人だ。『他人は他人だ。周りを気にしてたら気付いた時にはジジイになってるぞ。……それを言いたくてな』「つまり……?」『結婚は早い方が良い。やるなら呼んでくれ。休みが取れたら海外も行くから』隕石落下。全てが吹き飛ぶ情景を頭に思い浮かべながら、通話を切った。結婚式に呼んでほしいということを言う為に俺にアウティングさせようとしたのか?分からない。そもそも叔父の思考を理解しようという方が無理だ。モテるだろうに独身を貫いてるし、仕事は好きそうだけどフラッと長期旅行に行ったりするし。あと日本で結婚がまだ認められてないからって、さらっと海外を勧めてたな。椅子に深くもたれ、天井を見上げる。「結婚……」額を押さえ、独白する。自分とは縁がないと思っていたから、遠い星の言語に聞こえる。それにしても恥ずかしい。四年前の俺も、透夜に対してメロメロに見えていたんだろうか。叔父さんは目敏いから仕方ないとして、当時のバイト仲間にもバレてたなら相当やばい。営業スマイルもかたいと言われていた俺だから、透夜が店に来た時はかなりデレデレしていた可能性がある。ああ~……時間巻き戻してやり直したい。とりあえず叔父に警戒しろ、と言いたいところだったけど、結局その日は透夜が帰ってきても何も言えなかった。クールだ。クールに振る舞え、俺。透夜に会う前なら普通にできてたことなんだから。祝日、バイトの子が急遽来れなくなり、店にヘルプに行くことになった。天気は快晴。コンディションは悪くない。「助かります、戸波さん。ありがとうございます」「いえいえ。今はお客さんもいないし、できることがあれば教えてください」「それでしたら残数が少ない品の発注をお願いできますか?」「はい」店長の霜沢さんという女性は、物腰が柔らかで優しいひとだった。俺が大学生の時は常に叔父がいて、監視下に置かれた囚人のように緊張と闘っていた。それを考えると今は天国に近い。でも仕事中は真剣に。
last updateÚltima actualización : 2026-09-13
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三石

『宙。商品カテゴリのクソみたいなアイコン昼までに必ず直せ。背景と同化して見にくいんだよ、目が悪いなら眼科行って眼鏡買ってこい』「ただ今修正します」宙はモニターを見ながら、もうひとつ置いてるタブレットに視線を移す。晴れた日の午前、紫信とビデオ通話をしながら指摘された箇所を修正した。「これはどうです?」『そうだな……。うん、少しマシになった』「境界線入れます?」『任せる』仕事も少しずつ慣れてきた。最初は前任者の引き継ぎをするので精一杯だったけど、今では一人でこなしている。まぁ叔父さんはすごく指示してくる人だけど……。子どもの時からそれなりにシバかれていたので、他の社員に比べると耐性ができている。バイト時代、レジのお金が合わなかった時はマジで飛び降りたいぐらい説教された。というか、普通に泣いた。『そういや、この前はありがとな。店の方にもヘルプに入ってくれると急な欠員が出た時に助かる』「いえいえ。晴れてる日で良かったです」この間はバイトの子が熱を出して来れない状態だった。連絡を聞いて、自分からヘルプに志願したのだ。久しぶりの接客は緊張したし、思い通りに動けなかったけど、改めて勉強になったと思う。『お前バイトの子達に人気みたいだぞ。また是非来てほしいと』「え、ほんとですか? 良かったぁ、優しくて爽やかなお兄さんに見えたかな」『相変わらず演技の才覚だけはあるな。そうやって透夜君のことも落としたのか』「人聞きが悪い。透夜は……え? とっ……何ですか!?」椅子から飛び退き、タブレットを持ち上げる。聞き間違いだと思いたかったが、叔父さんは至極落ち着いた様子で頬杖をついた。『透夜君と同居してるらしいな。ったく、あんまりウブな青年を誑かすなよ。まぁお前もウブだけど』驚いて二の句が継げない。同居ともなると、カマをかけてるわけじゃなさそうだ。案の定、叔父は含みのある笑いを浮かべた。『彼から直接聞いたぞ。この間久しぶりに店にやって来てな。照れながら話してくれた』透夜お前……。いくら俺の上司で身内だからって、迂闊にペラペラ話すんじゃない。人によっては妙な詮索をしてくることもあるんだから。密かに思案していると、叔父は仕事を始め出した。『お前、透夜君のこと好きだろ』「はいっ!? 何の話ですか!?」好き?驚き過ぎて声が裏返ってしまった。一体ど
last updateÚltima actualización : 2026-09-14
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#2

何か、目のやり場に困るな。こういう会話に慣れてる人なんだろうけど、褒められるのに慣れてないから気恥ずかしい。「ありがとうございます。三澄さんて、すごくその……素敵な方ですね」あれ。何か間違えた。褒めるにしても他の言い方があったよな。言ってから後悔してると、案の定彼は可笑しそうに吹き出し、コーヒーを置いて微笑んだ。「あはは、ありがとうございます。男の人にそんなことを言われたのは久しぶりだ」「と、言うことは……女性からはいつも言われてるんですね」「おっと、そこはノーコメントで」彼は自分の唇に人差し指を当て、しー、と呟いた。動作のひとつひとつに目を奪われる。性別問わず人を惹きつける魅力がある人なんだな、と感じた。俺はと言うと、一緒にいて安心できる人がいい。例えば透夜のような……。「……ん?」一番に透夜を思い浮かべたことが不思議で、思わず声を出してしまった。そんな俺に、三澄さんも首を傾げる。「戸波さん、どうされました?」「あ。いえ、何でもありません」慌てて手を振ると、彼は一瞬きょとんとして、それから微笑んだ。「お二人とも、ごめんなさいね」店長も戻ってきた為、俺は自分の仕事に戻ることにした。最後に三澄さんに頭を下げると、彼は人当たりのいい笑顔で片手を振った。「また会えたら嬉しいです」「あ……は、はい。それでは、また」すごいオーラを放つ人だ。多分年は同じぐらいだと思うのに。指輪はしてなかったから独身かもしれない。でもモテそうな人だったなぁ。夜、ハヤシライスとサラダを作ってテーブルに置いた。お腹を空かせていたのか、透夜はあっという間におかわりを求めてきた。「すっ。…………ごく美味しいです、宙さん」「ためたなー。ほら、たんと食え」彼がいると作り過ぎてしまう。でも朝ごはんにも回せるし、ちょうどいいかもしれない。対面に座り、ふと昼間のことを思い出して透夜に話した。「……ってことがあってさ。たまにああいう人いるよな。上手く言えないけど、ただそこにいるだけで絵になる人。話し出したら自然と耳が傾いて、引き寄せられる」「へぇ。宙さんがそんなに言うってことは、相当イケメンだったんですね」「いや顔の話だけじゃないんだ。でも、そうだな。美形はもう見慣れてるから。お前で」スプーンを置いて悪戯っぽく笑うと、透夜は目を丸くした。「宙さん、俺
last updateÚltima actualización : 2026-09-15
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#3

宙はずるい。嫌なことがあれば逃げることができて、逃げたあとも大人から心配される。幼い頃はしょっちゅう聞いた言葉。もう誰に言われたのかも覚えてない。彼らの言う通り、俺は狡い。弱くて、守られる存在。それがたまらなく嫌で、自分を殺した。「俺なんか……って、言わないでください」凍った水面のような瞳で、宙は透夜を見返した。「透夜……」感情のない声音が胸に突き刺さり、息を飲む。「ごめん。自己肯定感低い、って前も言われたのにな」それどころか、今日初めて会った三澄さんにも言われた。自分を下げるのが癖というか、常になっている。なにせ、事実だと思っているから。自分は価値のない人間だと思っているから、足場を切り崩すことに抵抗がない。「俺は宙さんに救われました。誰とも関わりたくないと思ってた俺が、初めてもっと知りたいと思えた人……それが貴方なんです」「……前から思ってたけど、お前は俺を崇め過ぎだぞ。俺はむしろ性格ねじ曲がった奴なんだから」「性格ねじ曲がった人が、わざわざクローバー型の石なんて用意しませんよ」透夜は胸ポケットから、四年前に渡した石を取り出した。「四つの葉全てに意味があるんですよね。富と栄光、健康、……愛」「言うなって、恥ずいから」「あははっ。……でも、宙さんが周りを思いやる人だってことは皆分かってると思います」 クローバーの琥珀を手のひらに包み、透夜は瞼を伏せた。「本当は皆、宙さんと仲良くなりたいんですよ。ただ下手に触れたら壊れてしまいそうな人だから、迂闊に近付けないだけです」俺は別ですけど、と彼は笑った。「俺は加減が分からないんです。欲しいと思ったらなりふり構わず動いてしまう。きっと今も」テーブルに置いてる手が触れた。「貴方を愛し過ぎて、壊してしまいそう」「……あ……っ」何で、こんなことを真っ直ぐ言えるんだろう。叔父さんも言ってたけど、バカ正直過ぎる。「冷めるだろっ。早く食べなって」「はーい」わざと話を逸らしたものの、透夜は気を悪くすることなく、美味しそうにご飯を平らげた。くそ……っ。この人たらしを何とかしないと、心が持たない。逸る鼓動を抑え、空になった皿を片付けた。◇雨と同じぐらい、優しい人が苦手だ。優しい人の気持ちに応えることができない。今まで何回も、何十回も裏切ってきた。また明日、という言葉が怖
last updateÚltima actualización : 2026-09-15
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#4

最初は皆優しい。それを変えてしまうのは自分自身。同期も、先輩も、上司も、時間が経てば経つほど俺の至らなさに頭を抱える。俺が休んだ日の仕事を自分で片付けられるならいいけど、現実はそうじゃない。必ず誰かに皺寄せがいく。そして俺のせいで残業をして、取引先から怒鳴られて。嫌われるのは当たり前なんだ。弱い俺が一番悪い。書類がデスクに山積みになってる。返せてないメールがたまっている。伝えられてない予定を当日聞かされて、外を走るのはザラだった。終電を逃しても埋め合わせることができないんだから、体調云々の前に俺が仕事をできないだけだ。とうとう、晴れの日でも出勤途中に吐き気を覚え、駅のトイレに駆け込むことが増えた。何でこんなにも駄目な人間なんだろう。お守りとして持っていた石を握り締め、唇を噛み締める日々が続いた。“彼”には絶対、こんな姿は見せられない。弱音なんて吐かず、独りで生きなきゃ。胸を押さえ、鏡に映った自分を睨んだ。周りに迷惑ばかりかけて、すぐに塞ぎ込む弱い男を。何百回謝ったって許されない。それでも謝らないといられない。ごめんなさい。ごめんなさい、ごめんなさい……。「……宙さん!」「……あ」真っ暗な視界に一本の光が伸び、開いていく。呼吸をして、“現実”に戻っていく。瞼を擦ると、遠い天井の下に心配そうな透夜の顔が映った。「ん……どした……?」今は深夜。薄暗い部屋のベッドで体を起こす。すると透夜は息をつき、安堵の声を上げた。「宙さん、すごく魘されてたんですよ。たまたまトイレで部屋の前を通ったんですけど、最初は起きてるのかと思いました」そうか。寝言を言ってしまっていたみたいだ。汗も相当かいていたらしく、額も首元もびっしょりだ。「勝手に部屋に入ってすみませんでした」「んーん。むしろ起こしてくれてありがと」脚を下ろし、ゆっくり立ち上がる。「ちょっと汗すごいから、シャワー浴びる」「……はい」まただ。俺は現実を恐れてる。浴室から出ると、ダイニングの方に明かりがついていた。そっと覗いてみると、透夜がぼうっとしながら雑誌を読んでいた。「透夜、寝ないのか?」「あ。すみません、何か目が冴えちゃって」彼は困ったように笑い、頬を掻いた。俺のせいで眠れなくなったに違いない。申し訳なくて、俯き加減に相槌を打つ。「透夜、明日休みだよな。何か予定あ
last updateÚltima actualización : 2026-09-16
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#5

大橋を抜けると、煌びやかな工場地帯が見えた。時間が遅いから道も空いていて、ドライブを楽しむには打ってつけだ。透夜を助手席に乗せて、白のシャトルで高速を走る。ひとりだとあまり走る気しないのに、不思議なもんだ。深夜二時。全てが寝静まっている。この車内は、俺と彼だけの世界。「透夜。眠かったら寝ていいからな」「ありがとうございます。でも全然、もっと眠気覚めました」「そっか。連れ出しておいてごめんな。明日は一日爆睡しそうだな」「良いですって。一緒のベッドで寝ましょ」「狭いから断る」海沿いのサービスエリアに入り、車を停める。透夜はお疲れ様です、とにこやかに言った。「走りやすそうで良い車ですね」「あぁ。中古だけど気に入ってる。でももう手放そうと思うんだ。収入も減ったし、節制していかないと」暖かいものが売ってる自販機でミルクティーを二つ書い、透夜に手渡した。「コーヒーは眠れなくなるからな」「ふふ、そうですね」解放されている二階のテラスへ生き、真っ暗な港湾を眺めた。人は自分達以外に誰もいない為、貸切状態。風の音しか聞こえない場所で、海の向こうに灯る光が印象的だった。「宙さん、いつも悪夢を見てるんですか?」壊れやすい宝石を取り出すように……周りの静寂を破らない声量で、透夜は問いかけた。「たまーに、な。いつもじゃないんだけど、うるさくしてごめん」「そんなのは大丈夫です。そうではなくて、……景さんが辛い想いをしてることが、辛い」彼は俯き、張り裂けそうな声で零した。前髪のせいで表情は窺えないが、まるで泣いてるようだった。俺のことなのに、自分のことみたいに痛みを感じている。「お前って本当……」「?」「いや、何でもない」ミルクティーを飲み切り、ゴミ箱に捨てる。春も終わりだけど、夜中はそれなりに冷えるな。透夜の手を握ると、案の定とても冷たかった。「そ、宙さん?」「温めてやるよ」俺は基礎体温が高い方だ。そう思って彼の手を強く握り締めたのだけど、何故か透夜の顔は真っ赤になった。「今日は珍しく、宙さんの方が積極的ですね」「何、何の話?」「あ、分かんないならいいです」「何だよ! 気になるだろ!」歳上の威厳がないのも問題だ。適当に流されたことに抗議したが、透夜の横顔が嬉しそうに映った為口を噤んだ。さっきよりずっと良い顔してる。ホッ
last updateÚltima actualización : 2026-09-17
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四石

「あ、宙さん! このカップ素敵じゃないですか?」「ん? おぉ……ん!?」透夜の引越し作業も無事に終わり、同居を始めて早一ヶ月。二人で近くのショッピングモールへ買い物に行った。……のは良いのだが、透夜はごくごく自然に俺の手をとり、自身の方へ引き寄せた。「透夜、心配しなくても呼ばれたら行くから」「あ、すみません!」透夜は慌てて手を離した。悪気ない行為だから胸が痛くなるけど、やっぱり人目は気になる。一緒に住まないかと持ち掛けたのは俺の方。これが如何に思わせぶりで、期待させるようなことか、自覚はしている。ただ彼の役に立ちたかった。幸い家事はできるし、生活費も抑えられるし、社会人になりたての彼をフォローできるんじゃないか、と思ったのだ。でもやっぱりこれ、最大の悪手だよな……!彼の為を思うなら突き放すべきなのに、あの日の夜は本当にどうかしていた。俺は透夜をどうしたいのか。彼の人生に責任をとれるかも分からないのに、烏滸がましいにも程がある。拳を痛いぐらい握り締め、俯いた。今や彼を振り回し、束縛してしまっている。一体どうやって、この罪を償えばいいだろう。自己嫌悪のエンドレスループを繰り返していると、透夜が心配そうにこちらを覗き込んできた。「宙さん、大丈夫ですか? 少し顔色が悪い気が……」「あっ。いや……」「あれっ? 透夜じゃん! 久しぶり!」ん?明るい声に振り返ると、透夜と同じ年頃の青年が不思議そうにこちらを見ていた。「道流。あれ、今日休み?」「おー、俺不定期シフトだからさ。あれ、こっちの方は?」興味津々で見つめてくる青年に、猛烈に不安を覚える。透夜、間違っても好きな人とか言うなよ……!それをしたら俺もお前も苦境に立たされるからな。切羽詰まった視線とオーラに気付いたのか、透夜は驚くほどの低音ボイスで答えた。「前のバイト先の先輩」偉い!ちょっと怖いけど、スタンディングオベーションしても良いぐらい、心の中で賞賛した。「戸波宙です。初めまして」「どうも、鶴屋道流《つるやみちる》です。透夜とは大学の時の友達です」朗らかに笑う道流は、透夜と会えて嬉しそうだ。透夜もいつになく穏やかに見えるし、かなり仲が良いのだろう。懐かしそうに話す二人を見て、ホッとしつつ、疎外感を覚える。いや、違うな。何だろう、この感じ。俺が知らない透夜
last updateÚltima actualización : 2026-09-18
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#1

今、なんて……。真偽を確かめようとした時、透夜がこちらを向いて叫んだ。「宙さん! コーヒーこぼしてます!」「え。うわっ、冷た!」口元まで持っていってると思ったグラスは、自分の膝に注いでしまっていた。「ひえぇ、よりによってやばい部分に……」「おしぼりあるんで、トイレで拭きましょ!」道流君は親切に、大量のおしぼりを持ってきてくれた。濃いネイビーのジーパンなのが幸いだったけど、めっちゃ冷たい。「あー恥ずかしい」いくら驚いたとはいえアホだ。男性トイレに入り、洗面台の前で必死に拭いていると、後ろの扉が開いた。「宙さん、大丈夫ですか?」「あ、ごめん。大丈夫だよ」戻りが遅いことを心配したのか、透夜が心配そうに現れた。「だいぶ薄まったよ。コーヒーくさいけど」「ん~……そうですね……」彼は長駆を縮め、俺の内腿を掴むと無理やり開かせた。すると結果的に股間を凝視してる構図となる。瞬く間に羞恥心に火がつき、彼の肩を押した。「と、透夜。あんまり近くで見ないでくれるか」「え。あ、すみません! そういうつもりじゃ……!」もちろん悪気がないのは分かってる。でも人が来たらやばいから、早々に距離をとった。「せっかく店もいっぱいあるし、後でズボン買いに行っちゃ駄目?」「もちろん良いです! 探しにいきましょう!」透夜は即答したものの、顔を背けた。まだ少し赤い……のは、今のやり取りのせいだけではないだろう。「なぁ。さっき道流君が言ってたこと、本当?」「…………はい」耳を澄まさないと聞き取れないほど小さな声が返ってきた。透夜も気まずそうにしてるけど、俺はそれどころじゃない。「初耳だよ。リハビリ系とは聞いてたけど……」俺自身、症状が酷くて通院していた時期は理学療法士と関わったこともある。気象病は確立された治療法がないけど、普段の運動習慣も密接に影響している為、こまめなカウンセリングも受けていた。でも、まさかそこまで……。「も、元々目指してたのか?」「そう……です」あ、嘘だな。彼は意外と分かりやすい。それも俺限定なのかもしれないけど。「長年片想いしていた人っていうのは?」「……ふぅ。ちょっと待ってもらえますか」誰も来ないかハラハラしつつ、大人しく待つ。透夜は深く息をつくと、観念したように頭を掻いた。「……だから、宙さんといる時に道流に会い
last updateÚltima actualización : 2026-09-19
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