欠けるほど、光る

欠けるほど、光る

last updateTerakhir Diperbarui : 2026-09-27
Oleh:  七賀ごふんTamat
Bahasa: Japanese
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重度の気象病を患う青年、宙は大学時代のバイト先で出会った年下の少年、透夜に懐かれ、好意を向けられるようになる。 しかし自身の体質から恋愛に自信のない宙は、彼の好意を跳ね除け、別々に生きることを選択する。 社会人になって多忙さに崩れそうな日々を送っていると、四年ぶりに透夜から連絡があり…。 ─────────── 一途な年下×病弱な訳あり青年

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Bab 1

一石

その子と初めて出会ったのは、師走の晴れた早朝。

オープンとほぼ同時に来店したからよく覚えている。大学……いや、高校生だろうか。黒のジャケットに派手めの髪色。女性客は年齢問わず多いけど、若い男の子ひとりの来店は珍しい。

ただ陳列された石を見る顔は真剣そのもので、不意の横顔に見蕩れてしまった。

「なにかお探しでしたら、遠慮なくお声がけくださいね」

少し離れた場所からゆっくり声を掛ける。すると彼はソワソワしながらこちらに顔を向けた。他にお客がいないことを確認し、目の前の大理石のトレイに置かれた石を指さす。

「この石は、何か意味とかあるんですか?」

彼の隣に立ち、指し示された品を見る。それは白く、傾けると七色の光を放つ石だった。

「シンセチックオパールですね。小さな幸せを届けてくれると言われてますよ。あとは創造力を高める、明るさや希望を与えてくれるという石言葉があります。ただ……」

「ただ?」

「パワーストーンとしての効果に興味がおありでしたら、他の石の方が良いかも。シンセチックオパールは人工石なんです。オパールなんて言ってるけど、実はオパールじゃなくてガラス石ですし」

「えぇ……」

男の子が露骨にがっかりして見せたので、笑いながら「でも綺麗でしょう?」と持って見せた。

この石に限らず、市場の低価格で販売されている天然石は合成石であることが珍しくない。それでもその石が持つ石言葉を信じれば、御守りとして持つのに充分だ。

神社で買える御守りの効力を信じない人はたくさんいるし、パッと入った海外の雑貨屋の魔除けを信じて買って帰る人もいる。結局気の持ちようだ。

だから普段何が売れようと傍観してる方なんだけど、この子があまりに真剣に見てるから、聞かれてもないことを喋ってしまった。こんなこと初めてだ。

何となく、店に入ること自体緊張しているように見えたから……いつかの自分と重なったのかもしれない。

「優しい色と光を帯びてて、僕も好きな石です。部屋 にも置いてるぐらいなんで」

短く笑うと、彼はわずかに目を見開いた。

「お差し支えなければ、ご自身用か贈り物かお聞かせ願えませんか」

「プレゼント……。ばあちゃんが入院しちゃって、そういやこういう石が大好きだったな、って思って」

「そうでしたか……。大変でしたね」

彼はわずかに俯き、小声で答えた。気になるが、プライベートなことを深く聴くわけにはいかない。

でも、見た目尖ってそうなのにおばあちゃん想いの良い子だな。ますます余計な世話を焼いてしまいそうな自分を咎めつつ、店の奥を指さした。

「話してくださってありがとうございます。きっとおばあ様は貴方が選んだものなら何だって喜んでくれると思いますが……石言葉ぐらいならお伝えできるので、僕も一緒にお探ししますよ」

「あ。……ありがとう、ございます」

普段ならここまで踏み込んだりしないだろう。

でもホッとしたような、輝いた眼を見たら、他のことなんてどうでも良くなってしまった。

大学四年。このパワーストーン専門店でのバイトも今年が最後。

店長には申し訳ないけど、他にお客もいないので、その男の子と長いことプレゼントを探した。結果おばあさんの好きな苺色のストロベリークォーツのペンダントに決めた。

ストロベリークォーツは高価な宝石なのだが、その名称は広義に使われている。先程と同様、クォーツではない場合もあるが、重量に内包物、産地にもよる為、判断基準は無いに等しい。苺に近い色をしていれば全部そうだと言い張る猛者もいる。

けど女性が秘める輝きを高める為、贈り物にはぴったりだと思う。疲労を和らげるなんて言葉もあるし。

「良かった……。お兄さん、ありがとうございます」

「いえいえ。お役に立てて良かったです。おばあ様、早く良くなると良いですね」

ギフト用に包み、男の子に手渡す。

「はい。あの、後……」

「?」

「また来ても良いですか? 今度はその、自分用にも何か欲しいなって……」

彼は視線を下げ、頬を掻いた。よく見るとほんの少し赤くなっていて、照れてるんだと分かった。

「もちろん。今度はあなたの石を一緒に見つけましょう」

笑って言うと、彼はまたパァッと明るくなった。

なんて純な子だろう。見た目はパンキッシュというか、結構尖ってそうなのに。

ぶっちゃけ今まで対応した客の中で、一番素直で可愛い。

「そんじゃまた!」

「またのお越しをお待ちしてます。帰りお気をつけて」

学校もバイトも辛いことばかりだけど、続けて良かったと思える瞬間がある。まさに今みたいに。

彼は才木透夜《さいきとおや》君と言って、近くの高校に通う二年生だった。二回目の来店も運良く晴天で、無事接客ができた。最初は妙に緊張していたけど、次に会った時は色んなことを話してくれた。

おばあさんは無事快方に向かっていて、透夜くんが渡したペンダントをとても喜んでくれたらしい。笑顔で話す彼に、俺も自分のことのように嬉しくなった。

「わ、この水晶すごい。苺の形してる」

「あぁ、可愛いでしょ。天然石はカットの仕方や形でも効果が変わってくるんだ。苺の形に整えると素敵な出会いが訪れるんだって」

「へぇ~……」

「後はそうだな……ハート型や丸型も多いけど、お金持ちの人の家にありそうなのは大きなピラミッド型とか」

「あはは、何か分かるかも」

天然石に興味を持ってくれた彼と過ごす時間は楽しかった。

「戸波宙《となみそら》さん」

「ん?」

彼は石を持ちながら、少し掠れた声で呟いた。視線は、俺の胸にある名札に注がれている。

「うん。戸波って言います」

「……宙さんて呼んでもいいですか?」

「もちろん良いけど」

いきなり名前で呼ばれると何か照れるな。

でも、悪くない。弟ができたみたいで嬉しかった。

透夜君は俺が今年でここのバイトを辞めることを知るととてもショックを受けていた。今すぐいなくなるわけじゃないから、と宥めると何とか気を取り直していた。

でも彼もふと暗い顔を見せる時があって、人には言えない悩みを持ってるんだろうな、と思った。

気になるけど、あまり深く踏み込むことはできない。代わりに彼がここへ来た時は、精一杯の笑顔で話をしたい。

「またおいで。あ、晴れの日にね。雨の日はいないから」

「……? 雨の日はいないの?」

「うん。傘持ってないんだ」

わざとおどけて言うと、彼は肩を揺らして笑った。

そんなやり取りを繰り返し、冬を越し、バイトを辞めた。

親戚のお情けで雇ってもらったお店だった。

俺は“普通”と違う。それを人に知られることが、呆れられることがたまらなく怖かった。

晴れの日は外に出られるのに、雨の日は一歩も動けなくなる。……なんて。

働くどころか学校すら行けなくなる。

晴れの日しか来ないようあの子に言ったのは、体質のことで嫌われたくなかったからかもしれない。天候で体調が左右されるような弱い人間だと思われたくなかった。

事実弱いくせに。弱いと思われたくない、と思うことこそ弱い証拠だ。分かってるのに、彼と会うときは必ず晴れが続く週に約束した。

「宙さん! ごめん、待った?」

「ううん、全然。じゃあ行こっか」

遠夜くんとは連絡先を交換して、プライベートに会うぐらい仲良くなった。近くの天然石ショップ巡りをしたり、他愛もない雑談をしたり。大学で友人がいない俺は久しぶりに楽しい休日というものを謳歌した。

最初こそ話を合わせられるか緊張したけど、何回も会ううちにその不安もどこかへ消え去った。今は彼の顔を見ると安心感に包まれるほど。

街は緑も増えつつある。陽だまりの中を歩きながら、当時は珍しかった西洋建築の建物を見上げた。

「この辺って綺麗な街並みだから、デートスポットとしても人気なんだよね。ウチの店もカップルが多いし」

「あー、確かに。さっきからめっちゃベタベタしてるカップル多いですもんね。……宙さんは彼女いるんですか?」

「あはは、いないよ」

「じゃ、募集中?」

「んー……」

募集したところで誰も来ないし、いずれ呆れられ、向こうから去っていくに決まってる。

「俺はそういうの向いてないから。ずっと独り身かな」

苦笑しながら答えると、彼は急に険しい顔で前を塞いだ。

「宙さんが一生独りなんて、ありえませんよ。俺が保証します」

「そ、そう……? ありがとう」

お世辞だと分かってるけど、あまりに真っ直ぐな瞳で言いきるから否定できなかった。

不思議な子だ。

本当は俺なんかより、気のおけない友達や受験勉強に時間を割くべきだろうに。

せっかくの晴れの日を奪って良いんだろうか……。

楽しいからこそ募っていく不安がある。けど、彼から与えられる光が、会う度に視界を明るくする。

優しくされることも慣れてないし、半トーン高い声で話すのも慣れてない。でも必死に彼と同じ目線になろうとしていた。

そして、確かに救われていた。

この気持ちの正確な名前は分からないけど、間違いなく言えることがある。

俺はこの子が好きだ。

「洋館巡り楽しかったですね!」

「ね。でも、渋いね。透夜君なら遊園地とかの方が好きそうだけど、こんな静かな場所を歩くだけで良かったの?」

「遊園地。好きですけど、宙さん絶叫系平気なんですか?」

「駄目」

「ほら」

笑い合って、近くの繁華街に入った。ここは観光地で、カップルやファミリーはもちろん、修学旅行生も多い。

「どうしよう。豚角煮まんは絶対食べたいんですけど、パンダ餡饅も絶対……死ぬほど食べたい」

死んでも食べたい、じゃなくて死ぬほど食べたい、なのか。それはちょっと薦められないけど……。

「じゃあ一個ずつ頼んで、半分こしようか」

「あぁ! そうしましょ!」

饅頭を買って、道の端に寄った。皆食べ歩きをしてるから、俺達も互いに半分に割る。

「はい、宙さん。あーん」

「え!?」

でも彼は、半分にした饅頭を俺の口元に差し出してきた。

いやいや、カップルじゃないんだから! 

自分で食べるよ、と言いたかったけど、眼をキラキラさせて待ってる彼を見たら嫌だとは言えなかった。

頼む、誰も見ないでくれ。密かに祈りながら、差し出された饅頭を口にした。

こし餡が死ぬほど熱かった。

「どうですか? 美味しい?」

「うん……」

間違いなく舌と上顎を火傷した。微妙な反応をしてしまったけど、俺も負けじと豚角煮まんの半分を透夜くんに差し出す。

「ほら。あーん」

彼にもこの羞恥心を味わってほしいとやり返したけど、これ、自分で口にするのもかなり恥ずかしいな。

しかも透夜くんは何の躊躇いもなく饅頭にかじりつき、「うまー」とハフハフしている。

何か俺の方が顔熱くなってて悔しい……。

それにしても、彼の人なつこさは素で間違いないみたいだ。

きっと周りから愛されて育ったんだろう。

ちょっとだけ羨ましくもあるけど、できればずっとそのままでいてほしい。

「宙さんは何で彼女作らないんですか? そんなに綺麗なのに」

「俺の恋愛事情なんか知っても楽しくないと思うよ。あと綺麗じゃない」

フルーツ飴を渡して、近くの壁にもたれかかる。俺はもう腹がいっぱいで、これ以上食べられそうになかった。

「綺麗です。今まで見た男の人の中で一番綺麗です」

「ふぅ……」

ため息をついてしまったのは、素直に「参った」と思ったからだ。

顔と胸が熱い。生まれて初めて言われたし、周りに聞こえてないかとヒヤヒヤする。

「クラスの女の子にもそうやって言い寄ってない?」

「してません!! 命懸けます!!」

尋常じゃなく大きい声が返ってきた為、質問した俺の方が「ほあっ」と情けない声を上げてしまった。

「女子に告白されることはありますけど、知らない子のことが多いし、知りたいとも思わなかった。でも宙さんは違う。初めて、もっとたくさん知りたいと思ったんです。友人や先輩みたいな、切ろうと思えば簡単に切れる関係じゃなくて……もっと一緒にいたい」

「それって……」

告白じゃんか。

喉元まで出かかった言葉は、すんでのところで叩き落とされた。

「俺は宙さんが好きです」

言葉の意味や感情より、一番に頭に浮かんだのは綺麗な声だ、ということ。

あまりに自然過ぎて、告白だと気付くのに数秒かかった。

「……っ」

でも、俺には誰かと付き合えるような資格はない。

「俺も……遠夜くんのこと好きだよ。友達っていうか、本当の弟みたいで」

少しわざとらしくなったかもしれないが、精一杯の笑顔で答えた。

少し逸れて路地に入り、賑やかな大通りを横目に見る。

楽しい、どころかずっと一緒にいたい。

でも俺なんかに使う時間があったら、他のことに使ってほしいと本気で思った。卑下してるわけでも、意地悪でもない。……彼のことが本当に好きだから。

人間には二パターンいる。日向を歩く人と、日陰を歩く人。

ちょっとフラフラ迷っただけで、ここみたいに日当たりの悪い道に入ってしまうんだ。ひとたびこちらに慣れると、表が眩し過ぎて、出ていくこともできなくなる。

彼は日向にいるべき人間だ。

俺は違う。ただでさえ低い位置から、今後さらに降下していくだけ。

「そろそろ帰ろっか。ちょっと曇ってきたし」

上手く話が逸れたことに安堵しながら日陰を出た。

透夜くんはなにか言いたそうにしてたけど、その言葉を聴く勇気がないから、彼の手を引いて通りまで進んだ。

「宙さんは、自分を卑下し過ぎだと思います」

最寄り駅まで送った際、透夜くんは不貞腐れたように頬を膨らました。

それが何か可笑しいのと可愛くて、思わず吹き出してしまった。

「何で笑うんですか。俺は怒ってるのに」

「え、そうなの? 全然怖くない。可愛いよ」

むくれてるところを見ると子どもだなぁとしみじみ思う。

改札口を抜けた彼が、低い柵越しにこちらへ来たので、頭を軽く撫でてやった。

俺の場合、自己肯定感なんてある方が疲れそうだ。

「俺なんかにここまで付き合ってくれたのは透夜くんだけだよ」

嘘じゃなく、事実だ。そう零すと、「宙さん」とまた名前を呼ばれた。

  

「俺はこれからも付き合っていきたいです。今度は弟でも友人でもなく……恋人として」

「こ……っ」

とうとう、逃れられない言葉を聞いてしまった。

瞼を閉じ、必死に逃げ道を考える。

「よく言うだろ、友達と先輩は選べって。恋人はもっとそう」

休日だから人の出入りが激しい。たくさんの人がやってきては、俺達の横を通り過ぎる。

「その通りです。それで、次はいつ会えますか?」

「…………」

何とか諭そうとしてるのに、彼はブレる気配がない。打たれ強いことに内心驚いた。

でも彼はこれから受験がある。同級生の友達と遊ぶことも大事だ。俺なんかに時間を割いたらいけない。

本当はずっと分かっていたけど、彼と過ごす時間が楽し過ぎてズルズル伸ばしてしまった。

俺は最低だ。もういい加減、彼を解放しないと。

「……いや、会えない。悪いけど、俺も春から会社員だし、忙しくなるから」

「でも雨の日は動けないんでしょう?」

時間が止まった。

頭を鈍器で殴られたみたいな衝撃に襲われ、立ちすくんだ。

「何で、それを」

「すいません。プライベートなこと訊くのはいけないと分かってたけど、宙さん時々顔色が悪いから気になって。……雨の日に店に行って、店長さんに訊きました。雨天の日は歩くのもままならない、重度の気象病だって……」

視界が霞む。心臓がいやに跳ねて、ばくばくうるさい音を立てている。耳も遠くなってるのか、周りの雑音がシャットアウトされた。

「普通に生活するのも大変だって聴きました。でも俺、なにか貴方の力になれないかと思って……貴方が困った時に、傍で支えていきたいんです。初めて会った日、俺を助けてくれたみたいに」

そう叫ぶ透夜の目元は赤い。まるで泣いてるみたいに。

自分に対する歯がゆさと負い目。彼の優しさで頭の中がぐちゃぐちゃになっていた。

まずいと思った。

このままじゃ本当に彼を好きになる。

でも駄目だ。

大事で、幸せになってほしい彼だからこそ……俺と一緒にいてはいけない。

「そんなの……仕事なんだから、親切にするのは当然だよ」

震えそうになる声を必死に振り絞り、吐き捨てた。

拳を強く握り締め、彼の眼を見返す。少しでも気を抜いたら心が揺れてしまいそうだったから、容赦ない雨の冷たさを思い出していた。

優しくしたいって思ったばかりなのに、自分が弱いせいで彼を傷つけようとしている。

「優しくても、知らない人を簡単に好きになっちゃ駄目だよ。俺みたいに、雨の日だけ介護に呼ばれる関係にされかねないし」

これ以上は無理、というぐらい皮肉を込めて言い放った。存外返ってきた言葉は、また俺の予想の斜め上をいくもので。

「それでも構いません。貴方が望むなら」

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last updateTerakhir Diperbarui : 2026-08-31
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「な……何言ってんの」「何って、宙さんが言わせてるんじゃないですか。俺が本気だってこと分かってるのに」言葉を失った。彼は気付いていたんだ。彼の好意を、俺がどう思っているか。そして、俺の態度が全て演技だということも。「人とあまり深く関わりたがらないのも、そのせいなんでしょう? でもすみません、俺はこうと決めたら頭より体が先に動くんです。宙さんが俺と会うことを不安に思ってるなら、尚さらぐいぐい関わるつもりです」多分、彼は俺の想像よりずっと意志が固い。本気だろう。でも、だからこそ申し訳なくなる。「……ごめん。俺は最低な奴だよ。嫌われたくないし、頼りになるって思われたいから、君の前ではかなり無理してる。騙してるのと一緒だ」「じゃあ今度は演技じゃなくて、本音をぶつけてください。何言われても傷つかない自信あるので」顔が熱くて仕方ないし、できれば今すぐ走って逃げたい。本音……。それこそ、口が裂けても言えない。額を押さえて俯くと、彼は頷き、泣きそうな顔で笑った。「時間をください。貴方を守る覚悟はできてるけど、貴方を幸せにするっていう確信も一緒に渡したいから。景さんを安心させられる大人になるんで、それまで待っててもらえませんか?」う……。恥ずかしいやら嬉しいやら、もうどうしたらいいのか分からない。一応大人だっていうのに、歳下の熱烈過ぎる告白にフリーズしてしまった。駄目だ。引っ張られそう。俺の中にかろうじて残ってる優しさを、彼に全部あげてしまいたい。「……絶対その前に他の子を好きになると思うよ?」「いいえ。宙さんじゃなきゃ絶対嫌です」雨は降ってないのに足の力が抜けて、フラフラしてきた。段々、お互い意地になって言い合ってる。でも人が増えてきたし、通行の邪魔になっていたので、両手を上げて降参のポーズをとった。「気持ちは分かったけど、この話はもうやめ。ほら、帰るよ」踵を返して別の路線へ行こうとすると、透夜は最後にもう一言、声を張り上げた。「宙さん。大好きです」それはどんな雑踏の中でも、荒れた心の中に優しく響いた。「…………っ」振り返りかけたけど、心を鬼にして立ち去った。視線を感じたけど、なるべく歩くことに集中して電車に飛び乗る。「はぁ……っ」疲れた。情けないことにまだドキドキしてるし。ドアの付近に立つと、自分の顔がガラスに映っ
last updateTerakhir Diperbarui : 2026-09-02
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last updateTerakhir Diperbarui : 2026-09-04
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「お前の病気は伝えない限り理解されないからな。理解はしても納得してもらえるとは限らないし」タバコの煙が上空に立ち上る。灰皿に灰を落とすと、一時的に途切れた。「上手く仕事をサボる奴はいくらでもいるが、お前は違う。病欠する奴を真っ先に淘汰するのが、会社、組織だ」「……分かります」「本当に? 次も正社員で仕事を探そうとか考えてないか?」うぐっ。図星だった為、思わず視線を逸らしてしまった。そんな自分の弱さを見透かすように、叔父は眼を細める。「週五勤務どころか、もう出勤する仕事は無理だと思うぞ。お前の負担はもちろん、雨の日必ず休むなんて、職場にとっちゃ大迷惑だ」叔父の言うことは正論だ。ため息を飲み込み、口を噤む。少ししてからようやく、そうですよね、と答えた。「晴れの日はこうして元気に歩けるのに。雨の日もそれぐらい動けよ、って皆思ってたでしょうね」バイトをしていた時は、オーナーが叔父だから考慮してもらえていた。でも現実問題、雨の日に必ず体調不良になる人間なんて社会のお荷物でしかない。「久しぶりに会ったのに、愚痴を吐いてすみませんでした。それじゃ……叔父さんもご無理なさらず。煙草も少し控えてくださいね。吸殻たまりすぎですよ」「それは約束できないな。あぁ後、反省はするなよ。お前が今どれだけ反省しても、辞めた会社には一銭も入らないんだから」「でも、反省はしませんと」「病気を持って生まれたことを? それこそ馬鹿馬鹿しい」叔父は少々乱暴に煙草を灰皿に押し付けた。「理解されないなら、理解されなくても問題ない環境を探せ。───ちょうどウチのオフィシャルサイトを運営してくれる人間を捜していてな。まだ募集はかけてないから、お前がやってくれるなら広告費をかけずに済むんだが」「叔父さん……」「プログラミングも商品知識も多少あるから言ってるんだ。リモートで良いから、まずは簡単な修正からやっていけ」また大事な人に助けてもらってる。申し訳なさと、自身に対する歯がゆさと、……とめどない感謝の念に押し潰されそうになった。「でも、本当に良いんですか? も、もちろん、受ける際は全力でやりますけど」「二回も言わないから今決めろ。お前は考え込むと長いだろ。」「……」さすがによく分かってる。下手したら、彼は俺の親より俺の性格を理解しているかもしれない。知識や技術は
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春とはいえ、夜はまだ冷える。ぶるっと震えながら飲み屋の通りを抜け、駅へ向かった。寒いな。風邪ひきそう。一年中おでんがあれば良いのに……いや、たまには自分で作ろうか。せっかく明日から時間があるんだし。これからは自炊がベターだ。駅ビルのスーパーに入り、買い物カゴに大根を入れる。大根が一番重要だと思っているので、もう大丈夫だ(←?)。練り物コーナーに向かい、目に入ったはんぺんやちくわぶ、それにガンモを入れていく。あとは何だっけ。スマホを取り出して調べようとすると、ちょうど着信音が鳴った。数年ぶりに表示されな名前に、一瞬手が滑りそうになった。何度か親指を上げたり下げたりしていたけど、諦めて電話マークをスライドさせる。「……もしもし」『もしもし。……宙さん?』最後に聞いた時より、いくらか低い声。電話だから実際の声とは違うだろうけど、たったひと言で心臓が跳ねた。自分に動揺し、ドン引きしている。たかが電話で、脳みそがとけそうなほど幸福を感じていることに。「久しぶりだな。どした?」『あはは、その感じ、宙さんだ。お久しぶりです。……お元気でしたか?』「……」商品を吟味してるふりをして、実際は眼を泳がせていた。スマホを耳に当て、質問を理解しようとする。なるべく冷静に、余裕そうに、……大人らしく。「元気、じゃない」おっっっっっと。秒で破った自分に驚く暇もなく、スピーカーの穴から張り詰めた声が響く。『だっ大丈夫ですか!? 今どこです!?』「いやいや嘘、元気! それよりどうしたんだよ、今まで一度も連絡してこなかったのに」それは俺も一緒だけど。内心自嘲的になりながら、料理酒をカゴに入れる。『えぇ。そりゃもう死ぬ気で自制してました。声を聞いたら会いたくなっちゃうから』「……っ!」また、どくんと心臓が跳ねる。有り得ないのに、心音まで聞こえそうな気がして怖い。彼に聞こえたら怖いな。てか、声震えたりしてないたまろうか。『宙さんは? 俺に会いたいと思ったこと、一度もありませんでした?』試すような、諭すような声音。歳上に話すトーンじゃないよなと思いつつ、軽く天井を仰ぐ。「会いたかった。……って言えば満足か?」『ふふ、相変わらずツンツンしてますね。そんなところが可愛いけど』かわ……。男に使う言葉じゃない。注意してやりたかったけど、近くに客がい
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二石
人生とは不思議なものだ。代わり映えのない生活が何百日も続いていたのに、大きな変化が一日のうちに二回も起こる。いや、知ってたじゃないか。神様はいつも気まぐれなんだって。「お邪魔します」「……や」透夜が家に来たのは二十一時過ぎ。大学生の時より良い、濃紺のスーツを着ていた。そして何より、大人になったな、と思った。最後に会った時は幼さを残していたのに、今は笑顔を浮かべても、成人男性の凛々しさを感じる。四年ぶりに会う透夜は、思わず見惚れてしまうぐらい立派な青年に成長していた。「お久しぶりです、宙さん」「久しぶり。あれ、医療職だよな? スーツなんだ」「今日までです。外部の研修会に参加する為に新宿まで。明日からは正式に配属先で勤務します」「お~。そりゃあお疲れ様。寒いだろ、早く入んな」彼を招き入れ、散らかり放題のリビングに案内する。ソファの上に置かれた服やら本を隣の部屋に投げ入れ、慌てて座る場所をつくった。「あ、酒飲むっ? 確か貰い物のビールがあるよ」「いえいえ。それよりおでん作るんでしょう? 手伝いますよ」透夜は袖をまくり、水道で手を洗った。「鍋はどこですか?」「えーと……」緊張してるのは俺だけか。モタモタする俺と違い、透夜の手際は良かった。うーん、モテそう。当たり前だ。顔良し性格良し、将来有望の男に彼女がいないわけがない。むしろこんな事を考えてる自分が気持ち悪くて、張り倒したい。時間はかかったものの、無事におでんのタネを煮込むことができた。鍋敷きをローテーブルに置き、一応冷えたグラスとビールも透夜の前に差し出す。「何で急に連絡してきたんだ?」「宙さんは何でおでんを作ろうと思ったんですか?」「べっ別にいいだろ。おでんはいつ食べたって美味いんだから」恥ずかしくなって、乱く床に座った。透夜はソファに浅く座り、無表情で俺を見る。「じゃあ、質問を変えます。何で急な俺の誘いに応えてくれたんですか?」「それは……あ、あまりに久しぶりだから」かつて可愛がってた知り合いが久々に電話してくれたんだから、乗らない理由はないだろう。そう思うのに、彼は前屈みになり、考える仕草をした。「本当にそれだけ?」「え?」「いえ。あ、おでん持ってきます」透夜が鍋を運んでくれたので、ひとまず夕食にありつくことができた。というか、ほとんど夜食に近い
last updateTerakhir Diperbarui : 2026-09-07
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#1
箸を置き、膝を抱える。恥ずかしくて、彼の方は絶対向けなかった。飲まないようにしてたけど、これ以上シラフで本心を話すのは無理だ。透夜が手をつけなかったビールを煽り、胸のうちを零す。「会わないようにしよう、って俺から言ったのに、電話なんか掛けられるわけないだろ。お前は友達多いし、明るい未来があるし、俺みたいな社会不適合者に構ってちゃいけない奴なんだよ」「はは。自己肯定感の低さも健在ですね」遠夜は困ったように笑っている。そんな表情すら久しぶりで、ずっと見ていたい。空になったグラスを置いて、徐ろに立ち上がった。「俺のようになるなよ。会えたのは嬉しいし、また会いたいけど……せっかく社会人になったんだし、新しい交流を大事にしな」「それは本心ですか? 俺が他の奴と仲良くなったり、手を繋いだり、抱き合ってもいいと?」「え?」またまた話しの雲行きが怪しくなり、窓際へ寄ったものの振り返った。「それは……遠夜の人生なんだから。俺が口を挟むことじゃないだろ」嘘だ。……想像したくない。彼が、他の誰かと触れ合ってるところなんて。「宙さん」透夜も床に手をつき、静かに立ち上がった。あれ。透夜ってこんなに背高かったっけ。見上げる形になり、今さら焦り出す。壁際に追い込まれ、背中にひやりとした感触が走った。後ろは冷たいのに、前は溶けそうなほど熱い。息が当たりそうな距離に、彼の顔がある。近い。彼の整った顔が、睫毛の一本一本まで確認できる位置にある。「それが貴方の本心なら、黙って聞き入れます。でも、少しでも違うなら……押し殺してる気持ちがあるなら、隠さないで。どんな言葉もまるごと受け止めて、愛せるぐらい、俺は強くなったから」不意に喉が鳴った。ずっと感じていた緊張と違和感はこれが原因なのだと確信した。今の透夜は、俺が知らない独りの男なんだ。経歴とか立場とかではない。もっと野趣を帯びた、熱烈な感情。気付かないふりをしていたけど、これ以上は無理だ。俺の腕を掴む手も、全てを暴くような眼差しも、到底逃げ切れるものじゃない。「四年間、ずっと思ってました。早く就職して、宙さんに相応しい人間になれるように、って。理不尽な目にも遭ったけど、貴方のことを思えば何とか耐えられた」「ばっ……何で、俺なんか」「宙さんは優しいですよ。それに可愛い。ひねくれてるところも、たまに見
last updateTerakhir Diperbarui : 2026-09-08
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#2
「え。一人暮らしするの?」「はい」翌週。仕事が終わった透夜と待ち合わせ、駅近のカフェに入った。俺と違って疲れてるはずなのに、彼は疲れの色なんて微塵も見せない。俺を先に席に座らせ、飲み物を買ってきてくれた(※俺がやると言ったけど数分死闘を繰り広げた為諦めた)。「今までは実家にいながらバイトしてたんです。でないとお金貯めることもできなくて」「そりゃそうか」学生の一人暮らしほどキツいものはない。友人との付き合いがあるほど、むしろマイナスだ。ちなみに俺は交友関係無いに等しいから交際費はかかんなかったぞ。という台詞をグッと飲み込み、人生の先輩として遠夜の話にうんうん賛同する。「いまいち良い部屋が見つからなくて困ってるんですけど。なりたい職には就けたし、こうして宙さんと会えるようになったし、ここ数年で一番幸せです」「そ、そりゃ良かった。そういえば何の仕事に就いたんだ?」「それは……内緒で」「何でだよ……まぁ危険な仕事じゃないなら何でも良いけど」チョコミントのドリンクを飲み、行儀悪く頬杖をつく。周りを見ると仕事帰りらしき男女のカップルが複数組談笑していた。誰にとっても、あれが見慣れた景色だ。「なぁ。ちょっと散歩しないか」「はい!」遠夜が快く動いてくれたので、ドリンク片手に夜の公園を歩いた。港沿いの公園で、遠くには大桟橋と客船が泊まっている。全然考えてなかったけど、ここはデートスポットだ。気付いた途端何だか顔が火照って、手をグーパーした。「うーん、夜も風が気持ちいいですね」「そうだな。あんまり一人で歩いたことなかったから知らなかった」「デートスポットですもんね」そう言うやいなや、彼は俺の手を握った。「俺達もこういう風に歩かなくちゃ。ですね?」「お前は本当、その……勇気あるよな」夜とはいえ、人目が気にならないのか。怖々尋ねると、彼は至極真剣な表情で即答した。「全然。むしろ世界中に見せびらかしたいです」「…………」潔いというか、逞しいというか。俺とは脳の構造が違い過ぎる。「もしかして嫌ですか? 俺と手を繋ぐの」「い、嫌じゃないけど。俺らは恋人じゃないし」「嫌じゃないなら何も問題ないでしょう」してやったりみたいな笑顔を見せられて、あ、はめられたな、と気付いた。こいつワンコっぽくしつつ、結構計算してるよなー……。恋愛経験
last updateTerakhir Diperbarui : 2026-09-09
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#3
彼の口から出逢った日のことを聞かされるのは初めての為、不思議と集中していた。あの日のことを思い出しながら、自然と手に力が入っていく。「ははっ。そういえば俺、あの頃クラスに男の友達いなかったんですよ」「え? どうして!」「クラスの中心的な女子に告白されて、断ったんです。その子が周りにどうこう言ったわけじゃないんですけど、噂が広まったら皆絶妙に俺のこと避け始めて。でも俺もそれでいいと思って、ひとりで行動するようになったんです」「それは……大変だったな」そんなことで避ける理由が分からない。よっぽど美人な子だったのかもしれないけど、妬む前に告白すればいいのに。男の嫉妬も存外怖いよな。「昔のこと、でも何か腹立ってくるな」「大丈夫ですよ。俺はメンタル鬼強いというか、宙さん以外のことではまず動じないんで」「いやちょっとは動じろ。理不尽なことには抗議していいんだからな」って、俺は抗議したことないんだけど。透夜の為を思って言った言葉が全てブーメランとして返ってきて、複雑な心境になる。それでも、彼がそんな辛い想いをしていたなんて……想像しただけで胸が苦しくなる。「ごめんな。何も力になってやれなくて」「とんでもない。宙さんから、たくさん力をもらいましたよ。学校だけが重要じゃないって思えたのは貴方に会えたからです」遠夜は懐かしそうに目を細めて、話を続けた。祖母の為に訪れたお店で、偶然会った綺麗なひと。初めは大人しそうで、落ち着いてる人だと思った。でもこちらの不安を感じ取ってくれてるのがよく分かった。あまりに不安そうにしていたのか、目が合うといつも「大丈夫」と言うように微笑んでくれた。ところどころ冗談を挟んで笑わせてくれたり。そういう優しさも持ち合わせた人なんだと分かった。「太陽みたいな笑顔の宙さんに心を持っていかれたのは、一瞬でした」「聞けば聞くほど恥ずかしいから、勘弁してくれ……」「何でですか。あんな完璧に振舞ってたのに」「違うよ。俺は普段はミスばかりするし、接客業のくせに客対応も苦手なんだ。透夜が来た時は良い店員だと思われたくて、……ぶっちゃけ頑張った」あんなに真剣に石を見る人は久しぶりだったから。……なんて、それだけじゃない。俺は彼に一目惚れしていたんだ。下心あったから丁寧に接客したみたいで、本当最低だ。絶対引かれるよな。言えねえ……
last updateTerakhir Diperbarui : 2026-09-10
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