篠原家の本邸の豪奢なエントランスで、私は完全に空気と化していた。義母は、茜の手をしっかりと握りしめ、まるで本物の娘を可愛がるように長々と褒めちぎっている。ひとしきり盛り上がった後、彼女はふと、その後ろで静かに立ち尽くしている私にようやく視線を向けた。「あら?そちらの方は?」「あ、私は――」私が名乗ろうと唇を開きかけた瞬間、智景が横からすっと手を伸ばし、私の持っていた手土産の紙袋をひったくるように奪い取った。「ああ、こいつは茜の友人ですよ。今日は茜の荷物持ちとして手伝ってくれたんです」――荷物持ち。その短すぎる一言が、私の3年間という結婚生活を、いとも容易くゴミ箱へ蹴り落とした。義母は私にはもう微塵も興味を示さず、嬉々として紙袋から豪奢な装丁の木箱を取り出した。「まあ!これ、主人がずっと探していた幻の銘茶じゃないの!それに、こっちは私が欲しがっていた血圧を安定させる特注のサプリメント……!茜ちゃん、主人の好みや私の体調のことまで、こんなに気遣ってくれていたのね!」それを聞いた茜は、一瞬だけきょとんとしたが、すぐにその美しい顔に柔らかな笑みを浮かべ、つつましく頷いた。「ええ。お気になさらないでください。当然のことをしたまでですから」胸の奥が、ギリッと音を立てて軋んだ。その茶葉は、私が知人に頼み込み、遥か遠方の産地からようやく取り寄せた希少な品だ。サプリメントだって、義母の体調を調べ上げ、1ヶ月も前から特別に手配して準備していたものだった。結婚してからの3年間、智景は私を一度も両親に会わせようとはしなかった。「篠原の家は格式を重んじる。君のような一般的な家柄では、親族がすぐには受け入れられない。俺が上手く立ち回るから、もう少し時間をくれないか」その言葉をずっと信じていた。いつか彼らに認められ、光の当たる場所で堂々と「お義父様、お義母様」と呼べる日が来る。そう信じていたからこそ、会ったこともない義父・宗介(そうすけ)の好む茶の銘柄を覚え、義母の健康を誰よりも気遣い、見えないところで尽くし続けてきたのだ。「本当に、この子は昔から気が利くのよねえ」義母は愛おしそうに、茜の手をぽんぽんと撫でた。その贈り物を、本当は誰が、どんな思いで用意したのか。誰も問わない。私がなぜ、こん
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