アイルランドの朝はいつも薄い霧に包まれている。真里亞はオフィスの大きな窓の前に立ち、ブラックコーヒーを手にしていた。窓の外では、ダブリンの街がゆっくりと目覚め始めていた。行き交う人々は皆、自分とは何の関わりもない。スマホが震え、画面に友人からのメッセージが次々と表示されていく。【真里亞、もう本当に見てられない!あなたが行った後、遊助の奴、完全に狂っちゃって、毎日あなたの家の前に張り込んで、アイルランドの住所をしつこく聞いてくるの】【あの人、頭おかしいんじゃない?あなたがあんなに尽くしてた時はずっとあの幼馴染にべったりだったくせに、あなたがいなくなって手放したくなったら、急に何かに目覚めたみたいに、あなたの大切さに気づいたふりしてるのよ】【自分を何様だと思ってるの?悲劇のヒーロー気取り?後悔してますって適当に言えば、あなたを取り戻せるとでも思ってるの?】【それに、あの南沢園子ってもっとひどいのよ。あの人がずっとあなたのこと気にかけてるのを見て、手首まで切って、遊助に結婚を迫ったんだって】【今、界隈じゃみんな笑い話にしてるわよ。宝物を捨てて石ころを拾うような真似をして、遊助は自業自得だって】【それに遊助のお母さんと妹も、ろくな人間じゃないわ。あなたがあんなに尽くしてあげたのに、2人とも遊助は園子と一緒にいるべきだって思ってるみたい。まあ、今は私もそう思ってるけどね、勝手にくっついてればいいのよ、あなたに構わないで】その下には、遊助を非難する言葉がさらにいくつも続いていた。真里亞の指先が、画面の上でふと止まった。遊助についての話を改めて目にしても、真里亞の心には何の波風も立たなかった。遊助と過ごしたあの年月の中で、真里亞は自分が本当に心を動かされた瞬間があったのかどうか、よく分からなかった。日々を重ねる中で、もしかしたら本気で一生を共にしたいと思ったことがあったから、プロポーズしたのかもしれない。けれど、傷つける行動を何度も何度も繰り返すうちに、心の中でようやく積み上がりかけていたその小さな好意は、あっという間に消え去ってしまった。真里亞は指を動かし、素っ気なく返信した。【もう全部終わったことよ】そのまま、まだ延々と遊助の惨状を語り続ける友人のメッセージからは目を離し、スマホを置いて、机の上に積み上がった書類
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