出発の前日。その日の朝、母が珍しく私を呼び止めた。「これから買い物に行くんだけど、あんたも一緒に来なさい」私は断ろうとしたが、母は何気ない口調で言った。「その服、もうずいぶんくたびれてるでしょう。新しいのを一着買ってあげるわ」私に?一瞬、聞き間違いかと思った。母に服を買ってもらったのは、高校へ入学するときの制服が最後だった。期待しないようにしながら、私は黙って車に乗り込んだ。ショッピングモールへ着くと、私はセール中の秋冬物売り場へ向かった。プロジェクトの現地は風が強く、一年を通して冷え込みが厳しいと聞いていた。佐伯教授からは、暖かい服を多めに持ってくるよう事前に連絡が来ていた。ようやく一着のマウンテンパーカーを見つけた。値札を見た瞬間、思わず手が止まった。16,980円。母はその値段を見るなり、さりげなく視線をそらした。「今は夏なんだから、半袖でも見たら?」そう言うと、近くにあった白いTシャツを手に取った。「これなんていいじゃない。シンプルだし。ゆいちゃんの分と一緒に買えば、ちょうど二枚で割引になるから」値札を見ると、990円だった。結衣の服はどれも高かった。あと990円分買えば、ちょうどまとめ買い割引が適用される金額だった。そのあとも母たちは楽しそうに店を見て回っていた。私は買い物袋を抱えたまま、黙ってあとを歩いた。店内の冷房は効きすぎていた。腕をさすってみても、体は少しも温まらなかった。やっぱり寒かった。店内を歩き回るうちに、陽斗は飽きてしまったらしい。「ねぇ、お小遣いちょうだい。アイス買ってくる」私が両手いっぱいに買い物袋を抱えているのを見ると、陽斗は慣れた手つきで私のリュックから財布を取り出した。「ちょっとアイス買ってくるね。すぐ戻ってくるから」そう言うなり、陽斗は駆けていった。しばらくして戻ってきた陽斗は、両手に四つのアイスを抱えていた。そこに、私の分はなかった。陽斗は頭をかきながら、少し気まずそうに笑った。「あっ、ごめん。みんなの分を持ったら、もう手いっぱいで……もう一回買ってこようか?」父が振り返り、眉をひそめた。「お前、もういい歳なんだから、陽斗を使いっ走りみたいにするな」私は陽斗へ小さく首を横に振った。
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