All Chapters of 結婚式前日、私は新郎を別の男に替えた: Chapter 11 - Chapter 12

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第11話

あるとき、友人が何げなく口にした。「琴葉、最近、結婚式の準備をしてるらしい。でも、全部一人でやってるみたいだぞ。遼は何も手伝わないって」水を飲んでいた湊の手が止まった。「結婚式?」「琴葉と遼の式だよ。知らなかったのか?来月らしい」湊はグラスを置き、それ以上は何も言わなかった。その夜、家へ帰ると引き出しを開けた。中には、何十本もの黒いボールペンがぎっしり並んでいた。一本一本が、口にできなかった思いの数だった。一本を取り出し、紙に名前を書いた。藤崎琴葉。その文字を見ているうちに、ふと笑みがこぼれた。笑っているのに、目は赤くなっていった。もうすぐ彼女は結婚する。それなのに、自分はいつまで待っているつもりなのか。答えは分からなかった。ただ、式へ乗り込んで奪うことも、思いを告げて、琴葉がようやく手に入れた平穏を壊すこともできなかった。湊は、そういう人間ではなかった。待つことしかできない。琴葉が自分を必要としてくれる日を。一生必要とされなければ、一生姿を見せないつもりだった。ところが、その機会はあまりに突然訪れた。ある日、見知らぬ番号から電話がかかってきた。出ると、懐かしい声が聞こえた。「久世さん?突然すみません。藤崎琴葉です」湊の手が震えた。「は、はい」琴葉は少しためらっていた。「一つ、聞きたいことがあるんです」「何でしょう」「久世家とうちは、仕事で提携していますよね。お父様が久世さんの縁談を探していると、父から聞きました」湊の鼓動が速くなった。「ええ」「それなら……私では駄目ですか?」聞き間違いかと思った。「今、何て?」「家同士の縁談です」琴葉の声は落ち着いていた。「まだお相手が決まっていないなら、私を候補にしてもらえませんか?」湊はスマホを握ったまま、バルコニーに立っていた。夜風が吹きつけ、目の奥が痛んだ。理由は尋ねなかった。遼はどうしたのかとも、何かあったのかとも聞かなかった。数秒黙ったあと、ただ一言、答えた。「ぜひ、お願いします」電話を切ってからも、長いことバルコニーに立っていた。やがてその場にしゃがみ込み、両手で顔を覆った。泣いてはいなかった。ただ、目は真っ赤だった。何年も待ち続け
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第12話

ただ、こう言った。「琴葉は、何度も雨に濡れてきたから」それだけで、目の奥が熱くなった。「どうして……教えてくれなかったの?」湊は優しい目で私を見た。「琴葉が幸せなら、それでよかったから」とうとう涙がこぼれた。私は泣き虫ではない。遼と過ごした数年間には、何度も泣いた。それでも、人前で涙を見せたことはなかった。けれど、湊の言葉には耐えられなかった。私の知らないところで、もう10年近くも見守り続けてくれた人がいた。見返りも条件も求めず、私に知られることさえ望まず、ただ幸せでいてほしいと願ってくれていた。「ごめんなさい。何も知らなくて、私……」涙を拭いながら言うと、湊が遮った。声は変わらず穏やかで、優しかった。「謝らなくていい。好きになったのは俺だ。琴葉が申し訳なく思うことじゃない。嫌なら、無理にそばにいようとはしない。この縁談が負担なら、取りやめてもいい。両社にも琴葉にも迷惑はかけない。琴葉がどんな暮らしをしたいのか、それだけ教えてくれればいい。あとは俺が何とかする」何か言おうとしたが、言葉が見つからなかった。「湊……」「最後まで聞いて」湊が一歩、距離を縮めた。「琴葉。俺のことが、どうしても嫌というわけじゃないなら……俺にもチャンスをくれないか?」私は目を見開いた。「どれだけ待つことになっても構わない。ただ、待つことさえ許してもらえないのが怖い」その目は、黒く澄んでいた。期待と緊張と、傷つけまいとする慎重さが浮かんでいた。そして、遼の目には一度も見たことのないものがあった。真剣さ。誠実さ。私でなければ駄目だという思い。昨日の式で湊に手を握られたとき、彼の手のひらは汗ばんでいた。緊張しているのだろうと思っていた。何年も待ち続け、ようやく私が隣に立ったのだ。平静でいられるはずがなかった。ほかにも、さまざまな出来事を思い出した。偶然や幸運、当たり前の親切だと思ってきたこと。そのすべてが、私の知らないところで、湊が私を傷つけないよう、静かに、精いっぱい大切に想い続けてくれていた証だった。「分かった」自分の声が聞こえた。湊の目が、たちまち輝いた。「それは……」「チャンスをあげるって言ったの」私は彼を見つめた。「私自身
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