ドレスショップを出た私は、遼と暮らしていた部屋へ戻った。玄関を開けると、彼がしゃがみ込み、靴擦れ防止用のパッドを手慣れた様子でハイヒールのかかとに貼っていた。淡いピンクの細いヒール。サイズは23.5センチだった。23センチの私の靴ではない。私の視線に気づいた遼は、靴を箱に戻してきちんと置くと、何でもないことのように言った。「ブライズメイド用に美羽が買った靴、うちに届いたんだ。あいつ、新しい靴を履くとすぐ靴擦れするから、貼っておこうと思って」「そう」それだけ答え、靴を履き替えて部屋へ入った。リビングへ行くと、ローテーブルの上にケーキが置いてあった。「さっき店の前を通って、ケーキが食べたいって言ってたのを思い出したから買ってきた」遼は歩み寄り、気を利かせたつもりなのか、ケーキを私の前へ押し出した。「私、食べられない」「え?」「チョコレートアレルギーだから」彼は一瞬固まった。「悪い。忘れてた」美羽が新しい靴で靴擦れすることは覚えているのに、私がチョコレートを食べられないことは忘れている。何も言わない私を見て、遼は話題を変えた。「今日の午後、どこに行ってたんだ?電話しても出なかっただろ」「ドレスショップ」「また何か問題でもあったのか?」「違う。今のままじゃ合わないから、タキシードのサイズを直してもらったの」遼は何の疑問も抱かなかった。「俺は何でもいいよ。だいたい合ってれば」「何でもいい」「だいたいでいい」——遼が私にいちばんよく口にする言葉だった。招待状の文面を確認してほしいと言えば、「何でもいい」プチギフトの箱を選んでほしいと言えば、「琴葉の好きなほうでいい」式ではダブルとシングル、どちらのタキシードを着たいかと聞けば、「どれも同じだろ」結局、相談に乗ってくれたのは美羽だった。彼女はカタログを手に、笑顔で言った。「遼はダブルが嫌いなの。老けて見えるって。シングルがいいよ。あの人にはそれがいちばん似合うから」そのときの私は、遼をよく知る彼女なら準備を手伝ってもらえると、むしろ感謝していた。今になって思えば、もうすぐ妻になる私が、夫の好みを別の女から教えてもらっていたのだ。やがて遼の電話が鳴った。次に目を向けたときには、彼は23.5センチの靴を持
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