今日は、夫の九条朔也(くじょう さくや)と私、九条澪(くじょう みお)が結婚して二周年の結婚記念日。そして、朔也が桜庭美羽(さくらば みう)と付き合い始めて、一年目の記念日でもある。美羽は朔也の秘書だ。大学を出たばかりで、まだ初々しさが残っている。まさに、彼の好きなタイプ。私たちが結婚して一年ほど経った頃から、美羽は朔也に付き添い、いろいろな場所へ顔を出すようになった。事情を知らず、彼女を九条夫人と呼ぶ知人までいる。美羽が彼のそばにいる時間は少しずつ長くなっていった。まるで私の居場所などもうないかのように。初めて美羽に会ったのは、朔也の誕生日だった。私はいつものようにキッチンでケーキを焼いていた。チン、という音が響いた瞬間、周囲の景色が変わり始め、私の身体も自分の意思では動かせなくなった。我に返ったとき、私は車が行き交う道路の真ん中に立っていた。白いズボンは泥だらけ。素足には、ガラスで切った傷があった。自分の身体に何が起きたのか分からず、私は慌てて病院へ駆け込み、全身の検査を受けた。そこで、不治の病だと告げられた。幸い、痛みはないらしい。ただ、やがて物事がわからなくなり、記憶も消えていくという。もちろんつらかった記憶も、一緒に。それなら、悪いことばかりではないのかもしれない。家に戻ると、オーブンの中のケーキは真っ黒に焦げていた。大きく息を吸って、もう一つ焼き直した。それを持って、朔也の会社へ向かった。その頃の美羽は入社したばかりで、まだ研修中だった。朔也は会議中で、私はケーキを抱えてラウンジで待っていた。美羽は出入りするたび、私を上から下までじろじろ見た。ガラス越しに美羽が同僚とひそひそ話す声が聞こえてきた。「あんなくたびれた女が、九条社長の奥さん?顔もスタイルも、私のほうが上じゃない?目が私と似てるだけで、あとは全然違うんだけど」ガラスのテーブルに私の顔が映っていた。くすんだ肌に、こけた頬。朔也が好きだと言っていたこの目も、すっかり疲れきっていた。確かに、きれいとは言えない。同僚が小声で美羽をたしなめた。「ちょっと、やめなよ。張り合える相手じゃないでしょ?社長が誰より大切にしてる人だよ。怒らせたら、ここで働けなくなるからね」それが気に入らなかった
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