母は病床に静かに横たわっていて、まるで眠っているようだ。「お母さんは……どうだ?」声が聞こえ、私は振り返った。湊が、少し息を切らしながら後ろに立っている。その隣には知夏もいる。二人の手は、指を絡めるようにしっかりとつながれている。私は二人の握り合った手に目を落とし、ただ黙って見つめた。そこでようやく、湊は知夏の手を離した。整った眉を、わずかに不機嫌そうに寄せた。「彩良、そんな目で見るな。知夏はお母さんに会いたくて急いできたんだ。その途中で足をひねったから、支えてただけだ」そう言うと、湊はその場にしゃがみ込み、知夏の靴と靴下を脱がせ、足首の具合を見た。その手つきは、あまりにも優しかった。「腫れてなくてよかった。でも油断はできないな。あとで医者にちゃんと診てもらおう。きっと何か薬を使ったほうがいい」目の前の光景を見つめながら、私は指先を手のひらに食い込ませた。去年、私は浴室で滑って転び、すねの骨を折った。3か月も杖をついていたのに、湊は一度も「痛くないか」と聞いてくれなかった。私は、自分に言い聞かせていた。彼はただ、人を気遣うのが苦手なだけだと。けれど今になって分かった。人を気遣えないんじゃない。私を気遣う気がないだけだった。知夏は湊の肩に寄りかかり、かすかな声で言った。「私は大丈夫よ。お義母さんに、最後に会いに来たんじゃなかったの?」「ああ。知夏が言ってくれなかったら、危うく忘れるところだった」湊は焦る様子もなく知夏に靴と靴下を履かせ終えると、ゆっくり立ち上がった。それから私を見た。その声には、さっきまでの温もりなどもうない。「お母さんは?俺に会いたいって言ってたんじゃないのか?」母は病床に横たわっている。湊から、わずかな距離しかないのに、見えていないかのように口にした。そこに看護師が入ってきて、母の顔まで白い布をかぶせた。湊の眉がわずかに寄り、声も少しだけ和らいだ。「俺だって、できるだけ急いで来た」知夏が一歩前へ出た。「奥さん、湊さんを責めないでください。彼は……」「じゃあ、誰を責めればいい?あなたなの?」私に問い詰められ、知夏はうつむいたまま、もごもごと口を動かすだけで、何も言えなかった。湊は知夏を背中にかばうようにして、眉間にしわを寄せた。
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