返してもらったお金と、それまでの貯金を元手に、展覧会の企画を手がける小さなスタジオを立ち上げた。女性をテーマにした展覧会やブランドイベントを専門に手がけた。最初の展覧会には、「私がいる」と名づけた。「私にはある」ではない。私には、私自身がいる。オープニングの日、真帆がひまわりの花束を持ってきた。「水瀬社長、おめでとう」私は笑って受け取った。会場には、ごく普通に暮らす女たちの物語が数多く展示されていた。離婚後、もう一度学び始めた人。裏切られたあと、自分の会社を興した人。子どもを失ったあと、深いうつ状態を乗り越えた人。10年続いた恋を終わらせ、一人でオーロラを見に行った人。どの物語も、男を後悔させるためのものではなかった。女は何度でも人生を始め直せると伝えるためのものだった。展覧会は思いがけない反響を呼んだ。多くのインフルエンサーが会場を訪れ、SNSには感想が次々と投稿された。【「私がいる」を見て、やっと別れる決心がついた。5年という時間が、すべて続ける価値のあるものとは限らない。見切りをつけるべき時を教えてくれる5年だってある】その投稿を見た時、目の奥が少し熱くなった。今度は、光一のせいではなかった。自分の痛みを、ようやく力に変えられたからだった。光一も会場に現れた。オープンから3日目、白いバラの花束を抱えて入口に立っていた。警備員に止めさせることはしなかった。光一は私の前まで来ると、会場中央の壁に目を向けた。そこには、一つの言葉が大きく掲げられていた。【失望は、一つ残らず心に刻まれる。そして別れは、自分を救うための一歩になる】彼の目に涙がにじんだ。「美月、ここにあるものは、全部俺が原因なのか?」私は穏やかに答えた。「あなたは、その一部にすぎない。何よりも、自分のために作ったの」光一は力なく笑った。「今になってやっと分かった。お前はずっと、あんなに俺を支えてくれてたんだな。最近、会社がうまくいってない。お前がいた頃は、いくつもの企画を細かく見てもらってたし、取引先も俺よりお前を信頼していた。いなくなって初めて、俺がどれだけお前に頼り切っていたのか気づいた」私は黙っていた。光一は話し続けた。「玲奈は何度か会社に押しかけてきた。もう弁
Read More