最後の調停が始まる30分前、千景は家庭裁判所の建物に隣接するコンビニの前で待っていた。ふと目をやると、木の下に宗介が立っていた。手には白玉ぜんざいのカップがあった。宗介はそれを安西朋花(あんざい ともか)の手にそっと渡し、彼女の口元についた餡を優しく拭った。「心配するな。今日の調停は、どんな展開になっても対応できるようにしてある。千景が何を要求しても受け入れるつもりだ。金額も株もどうでもいい。少しでも早く離婚を成立させて、朋花と落ち着いて暮らせるなら、それでいい」千景の胸が鋭く痛んだ。大学で過ごした4年間、宗介は同じように白玉ぜんざいを手にし、冷ましながら一口ずつ食べさせてくれた。夕方から明け方まで、図面を引く彼女のそばで夜を明かしてくれたこともあった。10年をともにした末、宗介は別の女に走った。それでも千景は思い出にすがり、自分を欺きながら、1年間この結婚を手放せずにいた。冷たい風が吹き抜けた。千景は無意識に左手に目を落とした。結婚指輪は、今も指の根元にはまっていた。長年つけ続けたせいで、皮膚には薄い赤い跡が残っていた。顔を上げ、宗介の手を見た。かつて2人の名前を刻んだ結婚指輪は、とうに姿を消していた。代わりにはめられていたのは、細身のシンプルなリングだった。朋花の指にあるものと、まったく同じデザインだった。この1年、必死に保ってきた最後の意地が、一瞬で崩れ落ちた。千景が指輪をそっとなぞると、目の奥が熱くなり、涙が不意に手の甲に落ちた。手を上げ、急いで頬の涙を拭った。指に力を込め、10年間はめ続けたダイヤの指輪を外した。そのまま、そばのごみ箱に静かに落とした。硬い音が小さく響いた。今日の調停が、きっと最後になる。千景はそう思った。千景は脇に置いていたバッグを持ち上げ、2人の横をまっすぐ通り過ぎて、裁判所の入口へ向かった。「千景」宗介に呼び止められた。千景の足が、ほんの一瞬止まった。宗介は足早に追いついた。「朋花は妊娠4か月だ。遅くとも年末までには、きちんと離婚を成立させたい。いつまでも引き延ばしていたら、最後にはお互いみっともないことになる」千景はゆっくり振り返り、わずかに膨らんだ朋花の腹に目を向けた。宗介は千景が何かすると思ったのか、すぐに朋花を背
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