「結月、聞いてんのか」3つ目の大きなトランクのファスナーを乱暴に引き上げながら、蒼大が苛立ったように声を荒らげた。「母さんがわざわざ飛行機のチケットを取ってくれたんだぞ。ありがとうの一言も言えないのかよ」私はゆっくりと顔を上げ、蒼大を見た。彼の額には汗がびっしりと滲み、着ているシャツの背中には大きな汗の染みができている。それもそのはずだ。今朝の朝食の席で、杏奈がぽつりとこぼした一言。「向こうの大学に行ったら、もうこの町のお菓子も食べられなくなっちゃうな……」たったそれだけの何気ない呟きを聞いて、蒼大は朝早くから動き出したのだ。30度を超える茹だるような暑さの中、古い街並みの残る区画まで自転車を走らせ、あちこちの老舗を回って山のように銘菓を買い集めてきた。帰宅してからも、中身が崩れないように丁寧に小分けにして箱に詰め直し、丸一日がかりで彼女のために精を出していた。対して、昨日の私への扱いはどうだったか。重い生理痛でベッドから起き上がれず、出かけるついでに鎮痛剤を買ってきてほしいと頼んだ私に対し、彼は心底面倒くさそうに吐き捨てたのだ。「自分で動けるだろ。それくらいでいちいち俺をパシリにすんな」――あの冷ややかな声と蔑むような目が、今でも胸の奥をチクチクと刺す。私は伏し目がちに視線を落とすと、静かにスマホの画面をロックした。「……ありがとう、お母さん」感情を押し殺してそう告げると、お母さんがキッチンから綺麗にカットされたフルーツの乗ったお皿を運んできた。お母さんは当然のように私の目の前を素通りし、一番美味しそうなメロンが乗った皿を杏奈の前にそっと置く。「これからは少しは聞き分けのいい子になりなさいね。なんでもかんでも杏奈ちゃんと張り合おうとするんじゃないわよ」その言葉を聞いた杏奈は、弾かれたように顔を上げた。そして、戸惑ったような、ひどく申し訳なさそうな表情を作る。「おばさん、結月お姉ちゃんにそんなこと言わないでください。お姉ちゃん、帝都の大学に合格するためにあんなに頑張ってたじゃないですか。だから、飛行機に乗るのは当然のことですよ」……私は、杏奈が嫌いだ。こういう風に、いつも物分かりのいい優しい子を演じて、私をかばうところが虫唾が走るほど大嫌いだった。家族全員から
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