第21話 内親王殿下、「いらっしゃいませ」が上手くなる 二度目のアルバイトを迎えるにあたり、結月は一つだけ自分に誓っていた。 今日は絶対に、「本日はご来店いただき、誠にありがとうございます」 とは言わない。 喫茶店へ向かう電車の中でも、結月は心の中で何度か確認した。「いらっしゃいませ。お好きな席へどうぞ」 これでいい。 短い。 簡単。 普通。 あまりにも簡単なので、今度こそ間違えようがない。 そう考えている時点で、すでに少し力が入りすぎていることには本人だけが気づいていなかった。 ◇「いらっしゃいませ。お好きな席へどうぞ」「……」「……」「香織さん」「何?」「なぜ黙るのですか」 勤務開始から十五分。 最初の客を迎えた結月は、前回教えられた通りの言葉を使った。 笑顔。 自然な声。 頭を下げすぎない。 完璧。 少なくとも結月本人は、そう思っていた。 常連らしい年配の男性客も、「はいはい」 とごく普通に窓際の席へ向かった。 問題はない。 それなのに。 カウンターの中で香織が、妙に感慨深そうな顔をしている。「いやあ」「何でしょう」「成長したなと思って」「前回から一週間しか経っていません」「それでもよ。前回の第一声を考えたら」
Last Updated : 2026-09-29 Read more