All Chapters of ガラスの靴を捨てて、走り出す: Chapter 11 - Chapter 12

12 Chapters

第11話

あの日、研は慌ただしく現れ、そして逃げるように去っていった。何をしに来たのか、私には分からなかった。けれど後日、かつての同僚たちから少しだけ事情を耳にした。私の結婚式から姿を消した研は、そのまま病院へ向かい、半年もの間、入院していたらしい。退院してようやく、再び会社に戻ったという。どんな病気だったのか、誰も知らない。ただ、理沙は私の結婚式より前に、研から解雇されていた。しかも、研の指示だったのかどうかは分からないが、会社を辞めてからというもの、理沙はどこへ行っても仕事が見つからなかったらしい。そんな噂話を聞いた私は、それ以上気に留めることもなく、すぐに忘れてしまった。吟と結婚したあの日から、研はもう私にとって、赤の他人になっていたからだ。結婚後、私と吟はごく普通の、けれど温かくて幸せな日々を送っていた。ときどき、私と研の過去を気にしていないかと、吟に聞いたことがある。すると吟は、ただ優しく私の頭を撫でながら、こう言った。「むしろ感謝してるよ。彼が君を大切にしなかったからこそ、俺が君と一緒になれたんだから」1年後、私たちに女の子が生まれた。とても愛らしい子で、私たちはその子に「杏奈」と名付けた。杏奈(あんな)が生まれた翌年、私はこれまで積んだ経験を活かして、Webメディア運営会社を立ち上げた。規模は決して大きくないが、それでも今では年間数千万円の利益を出せるまでになった。そのときになってようやく、一つの答えにたどり着いた。女はいつだって、自分の人生の主役でいなければならない。王子様が運命を変えてくれるなんて、期待してはいけない。まして、ガラスの靴さえあれば、シンデレラがたちまちお姫様になれるなんて夢を見てはいけない。誰かが幸せを与えてくれるのを待つくらいなら、自分の手で、自分が望む人生をつかみ取ればいい。
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第12話

清沢研・番外編心が結婚したときになって初めて、俺は、最愛の女を永遠に失ってしまったのだと気づいた。披露宴に乗り込んだあの日、本当は、心を連れ戻すつもりだった。自分が行けば、心は絶対に結婚をやめるはずだ。そう思い込んでいた。だが、披露宴の会場で、ウェディングドレス姿の心が親族たちと楽しそうにグラスを交わしているのを見た。吟の胸に寄り添いながら、近所のおばさんたちと声を上げて笑い合っている姿を見た。その笑顔を見た瞬間、その中に俺が入り込む隙などないと悟った。心は、自分の選択をした。そして、自分の手で自由を選び取った。実のところ、心が会社でどんな目に遭っていたのかも、理沙が俺に特別な感情を抱いていたことも分かっていた。それでも、あえて見て見ぬふりをした。それどころか、ときどき理沙と親密に過ごすことさえあった。俺は試していたのだ。心が口にしていた「一生、俺から離れない」という言葉が、本当なのか確かめたかった。しかし、心と別れて初めて気づいた。彼女を試していたのではない。自らの手で、かけがえのない人を永遠に手放してしまったのだ。エレベーターで初めて心と出会ったときのことを、俺は一生忘れないだろう。心は、驚くほど明るく、生き生きとしていた。両手に何10杯ものコーヒーを抱えながらも、愚痴ひとつこぼさなかった。大金持ちの家に生まれ育った俺は、数え切れないほどの権力争いを見てきた。それは兄弟が憎み合い、親子の情すら利益で繋がっているような世界だった。だからこそ、心がどうしてあんなにも無防備で、屈託のない笑顔で生きていけるのか、理解できなかった。彼女には金がなかった。父親は早くに亡くなり、大学の学費すら奨学金を借りてまかなっていた。母親も、小さな仕立て屋で、細々と生計を立てていた。それでも、心は一度も人生を恨んだことがなかった。そんなところに惹かれたのかもしれない。俺は自分から心に近づいた。そして、思った通りだった。甘い言葉をかけ、金に物を言わせると、半年もしないうちに、心は俺に夢中になった。それでも俺は、心と一緒に暮らす時間が好きだった。彼女は本当に純粋だった。俺に何かをねだることもなく、豪邸に住んでいながらも、ずっと安価な日用品を使い続けていた。いいものを知らないだけだと思った俺は、理沙に命じて心の
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