あの日、研は慌ただしく現れ、そして逃げるように去っていった。何をしに来たのか、私には分からなかった。けれど後日、かつての同僚たちから少しだけ事情を耳にした。私の結婚式から姿を消した研は、そのまま病院へ向かい、半年もの間、入院していたらしい。退院してようやく、再び会社に戻ったという。どんな病気だったのか、誰も知らない。ただ、理沙は私の結婚式より前に、研から解雇されていた。しかも、研の指示だったのかどうかは分からないが、会社を辞めてからというもの、理沙はどこへ行っても仕事が見つからなかったらしい。そんな噂話を聞いた私は、それ以上気に留めることもなく、すぐに忘れてしまった。吟と結婚したあの日から、研はもう私にとって、赤の他人になっていたからだ。結婚後、私と吟はごく普通の、けれど温かくて幸せな日々を送っていた。ときどき、私と研の過去を気にしていないかと、吟に聞いたことがある。すると吟は、ただ優しく私の頭を撫でながら、こう言った。「むしろ感謝してるよ。彼が君を大切にしなかったからこそ、俺が君と一緒になれたんだから」1年後、私たちに女の子が生まれた。とても愛らしい子で、私たちはその子に「杏奈」と名付けた。杏奈(あんな)が生まれた翌年、私はこれまで積んだ経験を活かして、Webメディア運営会社を立ち上げた。規模は決して大きくないが、それでも今では年間数千万円の利益を出せるまでになった。そのときになってようやく、一つの答えにたどり着いた。女はいつだって、自分の人生の主役でいなければならない。王子様が運命を変えてくれるなんて、期待してはいけない。まして、ガラスの靴さえあれば、シンデレラがたちまちお姫様になれるなんて夢を見てはいけない。誰かが幸せを与えてくれるのを待つくらいなら、自分の手で、自分が望む人生をつかみ取ればいい。
Read more