柚葉が俺の不在に気づいたのは、2時間後のことだった。彼女のスマホの着信音は、海外で流行っているロックバンドの曲だ。俺の好みではない。以前、俺の好きなインストゥルメンタルに変えてくれないかと冗談交じりに言ったことがある。柚葉はひどく嫌がった。あの時の冷たい口調は、今でも忘れられない。「私、何でもあなたの言う通りにしなきゃいけないの?」俺はいたたまれなくなり、すぐに謝った。だがつい先ほど、親友の桐生翔太(きりゅう しょうた)がインスタを更新した。【マジウケる。3ヶ月前にとあるバカに勧めた曲、俺はもう聴き飽きたってのに、あいつまだ着信音にしてるし】柚葉は3分前にそれに返信していた。【バカって誰のこと?】【お前のことだよ!】翔太からの返信は早かった。スマホはまだ絶え間なく着信を知らせている。俺はふと笑いそうになった。柚葉は一体いくつの心を持っていれば、同時に2人の男の間を揺れ動くことができるのだろう。俺が電話に出ないのを見ると、着信攻撃はメッセージへと変わった。【一体どこに行ったの?もうふざけないで。夜中だし、私すごく疲れてるんだけど】柚葉は絶え間なく文句を並べ立てる。その時、ふと思い返して背筋が寒くなったのか、運転手の声が再び響いた。「ご存じですか?ついおととい、お客様がいらっしゃったあの駅で強盗事件があったんです。被害者は助からなかった。市全体がその話題で持ちきりなんですよ。だから今日お客様をお乗せした時、本当に驚いたんです。こんな遅い時間なのに、あの駅に人がいらっしゃるなんて」俺の指がビクッと震え、視線は再び画面に落ちた。【どうしてそんなに物分かりが悪いの?少し迎えに行くのが遅れただけじゃない。翔太はせっかく遠くから来てくれたんだし、あなたの親友でもあるでしょ。少し譲ってあげたっていいじゃない】スマホを握る手が震え、心臓をナイフでえぐられるような痛みが走った。運転手はバックミラー越しに俺の赤くなった目元を見て、慌てて慰めるように言った。「申し訳ありません、お客様。言い過ぎましたね」俺は目を赤くしたまま首を横に振り、不意に何かの呪縛から解き放たれたような気がした。「いえ、感謝すべきなのは俺の方です」少し間を置いて、俺が返信しないのを見て、柚葉は突然こう
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