この春から高校生になる。成績は悪くないが、うっかりミスが多かった。私が本棚からノートの束を運び出すと、目を輝かせた。「お姉ちゃん、それ全部、勉強のノート?」「うん」ノートの束を理沙の前に置いた。「使う?」理沙は驚いた。「全部もらっていいの?」私は頷いた。「高校のものは、もう使わないから。要点と間違えた問題をまとめてあるし、必要なところだけ見ればいいよ」理沙は飛びつきそうな勢いで喜んだ。「お姉ちゃん、神!」私は笑った。かつて、そのノートを何より大切にしていた。とりわけ数冊には、どの問題にも、どの印にも、朔との記憶が染み込んでいた。それでも今は、一冊ずつ段ボール箱へ入れていった。あの片想いまで、一緒に封をするように。翌日、東嶺大学の入学式に出席し、晴れて大学生になった。大学生活は忙しかった。講義、サークル、図書館、アルバイト。新しい友人ができ、大勢の優秀な人たちにも出会った。高校時代に心を埋め尽くしていた人や出来事は、時間に押し流され、少しずつ遠くなった。千紘からは、ときどきメッセージが届いた。千紘は地元の教育大学へ進学していた。1限が早すぎるとか、学食が混みすぎるとか、互いに愚痴を言い合った。千紘が朔の話をすることはほとんどなかった。私から尋ねることもなかった。このまま、すべて過去になるのだと思っていた。ところが数か月後、アパートでサークルの企画書を書いていたとき、理沙から突然、画像が送られてきた。【お姉ちゃん、高校のとき付き合ってた人いたの?】指が止まった。続けて写真が届いた。ノートの中の一ページだった。使い込まれたページは、端が少し丸まっていた。その一番下に、黒い字で一行だけ書かれていた。角ばっていて、決して上手とはいえない。けれど、よく知っている字だった。【篠宮、好きだ】息が止まった。廊下を行き交う人たちの笑い声が、遠くなった。その一行しか見えなかった。——篠宮、好きだ。朔の字だった。3年間、朔は私の付箋に短い返事を残した。——うん。——分かった。——細かい。けれど、こんなにはっきりした言葉は一度もなかった。理沙から、またメッセージが届いた。【ノートを見てたら、このページが
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