第11話 七年前の「エレノア」は、夫の母の側近でした「私は、母が今どこにいるのか知らない」 エイドリアンの言葉を聞いたあとも、私はしばらく画面から目を離せなかった。 十二年前、父リチャード・ハートは会社の不自然な資金移動に気づき、十四ページの内部照会書を作成した。その写しを受け取っていたのが、エイドリアンの母ミランダ・ヴァレンタインだった。 しかもミランダは、父の懸念を否定していない。『あなたの懸念は妥当です』『通常の社内調査だけで処理してはいけません』『調査対象側へ情報が流れている可能性があります』 偶然同じ事件を見ていたというより、父とミランダは互いに何らかの情報を共有していたと考えたほうが自然だった。 それなのに、一人は半年後に事故死し、もう一人はヴァレンタイン家から姿を消した。 そこへ匿名の手紙まで加えれば、頭の中で物語を作る材料はいくらでも揃っている。 だからこそ、私は物語を作らないようにしなければならなかった。「ミランダさんの所在を探すのは必要だと思います。でも、今すぐご家族へ聞き回るのはやめましょう」 私が言うと、エイドリアンが横を向いた。「理由は?」「この資料を知っている人が誰なのか分からないからです。お母様が父の照会書を受け取ったことまで知っている人が現在のヴァレンタイン家にいるなら、こちらが何を見つけたか教えることになる」「叔父にも聞くなと?」「少なくとも今は」「母の所在を知っている可能性が一番高いのは叔父だ」「だからこそです」 エイドリアンの眉がわずかに動く。「叔父が事件に関与していると考えているのか」「考えていません。可能性から外してもいません」「便利な答えだな」「調査というのは、大抵そういう退屈な答えになります」 私は画面へ向き直った。「今分かっているのは、十二年前のミランダさんがヴィクターさん本人を犯人だとは書いていないこと
Last Updated : 2026-09-28 Read more