第51話 父を追った三台目の車は、会長ではなく秘書室の名義でした 事故の夜に父の前方へ入った可能性がある濃色のセダンについて、最初に頭をよぎった名前はアレクサンダー・ヴァレンタインだった。 会長室が使っていた車と同じ車種。 事故当日の午後六時二十五分に出庫し、九時十一分に戻っている。 利用目的は文書回収。 目的地は空欄。 その条件だけを並べれば、祖父が父の原本を取り戻すために車を出した、という物語は簡単に作れる。 簡単すぎるからこそ、私はその物語を信用しなかった。 翌朝届いたローラからの共有資料は、最初の一行から、その考えを少し修正する内容だった。『当該車両はAlexander Valentine個人専用車両ではなく、Chairman Office Administrative Pool契約車両であることを旧保険・リース台帳により確認。』 私はコーヒーを飲む前に、その一文を三回読んだ。「個人専用ではない」 向かいでエイドリアンが言った。「はい。会長室の共用車」「秘書室や文書担当も使える」「そうみたいです」 彼もすでに同じ資料を受け取っているらしい。「少し安心した?」 私が聞くと、エイドリアンはすぐには答えなかった。「祖父本人が乗っていた可能性が下がったことについては、少し。ただ、会長室の車だった可能性は逆に具体的になった」「そうですね」「しかも文書回収」「はい」 私たちはそれ以上、朝から無理に結論を作らなかった。 ただ、昨日までの「会長室と同じ車種」という曖昧な話から、「会長室が実際に管理していた共用車両の一台かもしれない」という段階へ進んだことだけは、もう否定できなかった。 ◇ 午前九時四十分。 外部調査チームとの会議が始まった。 今回は旧リース会社から回収された保険契約台帳、会長室車両管理表、事故当日の配車記
Last Updated : 2026-10-07 Read more