私は警備員の馬場(ばば)さんに連れられて手を洗い、擦り傷を消毒液で処置してもらった。彼はスマホを取り出し、私の代わりに実家へ電話をかけながら慰めてくれた。「家族と喧嘩して家出してきたんだね。お父さんもお母さんも、きっとすごく心配してるよ。迎えに来てくれるよう頼んであげるから、ね?」心配してる。その言葉にハッとした。馬場さんのスマホから聞こえる呼び出し音を聞きながら、私の心臓は激しく高鳴っていた。以前、母が灯の欲しがっていたおもちゃを買ってあげなかったとき、灯は怒って家出したことがあった。あのとき、家族全員がひどく心配した。父は二十四時間も経たないうちに三度も警察に駆け込み、兄は仲間を連れて街中をくまなく探し回った。やっとのことで灯がようやく見つかったとき、母は妹を抱きしめて号泣し、どんなワガママでも聞くと約束した。兄と父も目を真っ赤にして泣いていた。みんな、私のためにもこんなに心配してくれるだろうか?心の奥底に再びほんの少しの希望が芽生え、私の目に光が宿った。馬場さんはそれを見て心を痛めたのか、私の頭を優しく撫でてくれた。電話がようやく繋がり、馬場さんが事情を説明した。だが、電話口からは兄の苛立った声が聞こえてきた。「夜遅くにフラフラ出歩いて、何やってんだよ。灯がもう寝るってのに。一晩くらい外で放っておけばいい。もう大人なんだから、自分のことは自分でなんとかするだろ」私はその場に立ち尽くした。電話の奥では、灯がまだ甘えていた。「ママ、一緒にお風呂に入れて!お兄ちゃん、歯磨きはどこ?パパ、絵本を読んでくれる?みんな、ちゃんと私のそばにいてくれるよね、どっかに行っちゃダメだよ」馬場さんはまだ何か言おうとしたが、電話はすでに切られていた。私は俯いた。こうなることくらい、とっくに分かっていたじゃないか。小さい頃から、私は家で一番おとなしくて、聞き分けのいい子供だった。私なら自分で自分の面倒を見られるから、気にかける必要はないと、全員が思い込んでいた。だから当然のように、みんなの愛情は灯へと注がれた。大丈夫……本当に大丈夫だから……胸の奥が込み上げ、私は耐えきれずに、また一口血を吐いた。
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