紗良は、『SARA / ARCHIVE 2016-2026』と書かれたバインダーを開いた。最初のページには、大学一年の頃に短期間付き合った年上の先輩の写真と経歴がまとめられていた。彼が突然、長期の海外研修へ参加することを決め、その後、黒崎建設の海外支社へ就職するまでの流れが、日付順に記されている。当時は、奨学金と就職先が同時に決まったのだから、彼にとって良い話なのだと思っていた。遠距離恋愛に耐えられず、別れただけだと。だが書類の最後には、黒崎人材開発財団の特別推薦承認書が添付されていた。推薦者の欄には、黒崎怜司の印がある。ファイル内のメモは、さらに露骨だった。『対象との関係継続可能性・低。海外研修を提示した場合の受諾確率87%』人の心も、別れも、確率で計算されていた。紗良は紙を握り潰したくなったが、指に力が入らない。次のファイルは、二十三歳のときに付き合った初恋の相手についてだった。彼の父親が経営する工場が資金難に陥り、融資の期限を突然延長してもらえなくなったこと。一家が地方へ移らざるを得なくなったこと。その債権を買い取った会社が、黒崎キャピタルの関連会社だったこと。紗良はページをめくる手を止めた。別れの日、彼は泣きながら言った。『ごめん。家がこんな状況なのに、君まで引き止められない』その直後、怜司は何も知らない顔で紗良を迎えに来た。泣き疲れた彼女へ温かい紅茶を渡し、時間が経てばきっと楽になると話した。ページをめくるほど、あの慰めさえ疑わしくなる。初恋の人と別れた日、怜司は連絡もしていないのに川沿いの公園へ現れた。雨に濡れた紗良を車へ乗せ、何も言わず家まで送ってくれた。そのときは、兄から聞いたのだと思っていた。だが記録には、紗良がベンチへ着いた時刻も、泣き止んだ時刻も残されていた。出版社の採用面接日程。初出勤の日の移動経路。いつも飲むコーヒー。病院で受けた診察と処方薬。気持ちが沈んだときに訪れる河川敷のベンチ。写真の横には、短いメモまで書かれていた。『表情が暗い。桜庭直人から連絡させる』『一ノ瀬悠真と二人で残業。帰宅車両を配置』『見合い相手の身元確認。接触遮断が必要』『マンション契約更新予定。管理会社と協議し警備会社を変更』『他社からの転職提案、撤回を確認。現職維持が管理上有利』入社三年目、大
Terakhir Diperbarui : 2026-09-22 Baca selengkapnya