成田国際空港の到着ゲートが開くと、紗良は人の波の中から直人を一目で見つけた。以前より痩せている。それでも、間違いなく生きている兄の顔だった。「紗良!」「お兄ちゃん!」紗良は鞄を落とし、走り出した。直人の胸へ飛び込んだ瞬間、堪えていた涙が一気に溢れた。直人は妹の背を撫でながら、何度も謝った。紗良の首に残る細い傷と、痩せた顔を確認した途端、その表情が崩れる。「一人にして消えて、本当に悪かった。ごめん」「生きてたなら、それでいい。帰ってきてくれたなら、それでいいよ」空港近くのカフェで、直人はこれまでの経緯を説明した。怜司が裏金組織の目を逸らし、保護施設と逃走経路を用意し、最後には後継者としての地位まで手放したこと。紗良も、邸宅で起きたことを隠さず話した。位置追跡。二度の脱出。秘密の部屋に保存されていた、十年分の記録。すべてを聞き終えた直人は、しばらく何も言えなかった。「あいつが、お前をそんなふうに見てたなんて、まったく気づかなかった」「お兄ちゃんが頼んだんでしょう。私を守ってくれって」「守れと言ったのであって、閉じ込めろとは言ってない」直人は両手で顔を覆った。「怜司が俺の命を救ったのは事実だ。でも、その借りまでお前が返す必要はない。お前自身の気持ちじゃないなら、戻るな」兄の言葉を聞いても、紗良は怜司の罪を消そうとは思わなかった。彼が自分のためにすべてを捨てたことと、自分から選択権を奪ったこと。二つは同時に存在する事実だった。直人は帰国した日の午後、怜司の病室を訪ねた。扉が閉まった直後、鈍い音が一度聞こえた。「俺の妹を十年も監視しておいて、よく友達の顔ができるな」怒りを含んだ直人の声が、廊下まで漏れてくる。怜司は弁解しなかった。「悪かった」「紗良が許さないなら、二度と目の前へ現れるな」「ああ」「お前に助けられた俺の命を理由に、紗良を揺さぶるな」「そのつもりはない」「もう一度、あいつに黙って人をつけたら、友人も何もない」「もう終わっていても、文句は言えない」しばらくして、直人が病室から出てきた。握った拳の関節が赤く腫れている。「一発じゃ足りないが、怪我人だから我慢した」紗良は何も言わなかった。それから、一か月が過ぎた。紗良は数日の休暇を取り、直人と一緒に事故に関する事情聴取を受けた。壊れ
Terakhir Diperbarui : 2026-09-22 Baca selengkapnya