ここは薩摩の国――。 鹿児島県は姶良市。 錦江湾には桜島を望む。 そして―― ここに一匹の、気高く聡明なにゃんこがいる。 その名は――あずき。 * 朝から、あずきは玄関にいた。 いつもならお気に入りの場所で丸くなっている時間なのに、今日は玄関のたたきに座り、外をじっと眺めている。 三毛猫らしい模様の顔。 その中にある、ふっとい眉毛のような模様。 そして、一歳の雌猫とは思えない、堂々たるドッチャリ体型。 座っているだけなのに、妙な貫禄がある。 ナァー。 その声に、由乃が振り向いた。 「今日はお天気もいいし、あずきも一緒に行こうか」 あずきの耳がぴくりと動く。 チラッ。 由乃を見る。 それから、何事もなかったように外へ視線を戻した。 ナッ。 そのすぐ後ろでは、佐助が大喜びしていた。 ワン! (お出かけ! お出かけ!) 尻尾をぶんぶん振りながら、玄関を行ったり来たりする。 あずきが横目で見る。 ギロリ。 佐助の動きが、一瞬だけ止まった。 ワン……。 あずきは満足したように、再び外を見る。 * 車で向かった先は、なぎさ海浜公園。 錦江湾に面した海辺の公園である。 車から降りると、潮の香りがした。 風が心地よく頬を撫でていく。 あずきはキャリーから出ると、すぐには歩き出さなかった。 鼻をひくひく。 耳を動かす。 草の匂い。 海の匂い。 鳥の声。 遠くから聞こえる人の話し声。 そして―― かすかに混じる、猫の匂い。 あずきの目が変わった。 ギラリ。 ナァ……。 瑞稀がその様子を見て笑った。 「あずき、何か見つけたの?」 もちろん、人間にその意味は伝わらない。 あずきは答える代わりに、歩き始めた。 てくてく。 ゆっくりとした足取り。 その後ろから佐助がついてくる。 ワン! (待ってよ、あずき!) あずきは振り返らない。 ただ、ほんの少しだけ歩く速度を落とした。 * 公園の木々が並ぶ一角。 あずきが突然、足を止めた。 少し先に、一匹の茶白猫がいる。 茶白猫も、あずきを見ていた。 互いに近づくこともなく、しばらくその場にいる。 やがて茶白猫がゆっくり歩いてきた。 あずきも一歩進む。 鼻先を近づけ、互いの匂いを確かめる。 そして―― 額が、そっと触
Last Updated : 2026-09-26 Read more