個室を出た途端、ウェディングプランナーから電話が入った。「瀬尾紗英様、ドレスのウエストですが、予定どおり3センチほど出すお直しでよろしいでしょうか?」私は思わず足を止めた。「サイズは、前と変わっていませんけど」電話の向こうに、一瞬の沈黙が落ちた。「妹様の瀬尾莉緒様から、挙式のあと披露宴用のドレスとしてお召しになるので、今のままでは少し窮屈かもしれない、と伺っておりまして……」スマホを握る指先に、ぎゅっと力がこもる。「私のドレスを妹が着ていいなんて、誰が言ったんですか」「早瀬拓真様です。姉妹なんだから、そんなに細かいことは気にしなくていいと……」そのとき個室のドアが開き、拓真が出てきた。彼は何も言わず、自分のジャケットを私の肩にふわりとかける。拓真は、私が寒がっていることにいつも真っ先に気づく人だった。私がヒールを履く日には、決まって車にぺたんこの靴を1足忍ばせておいてくれる。以前の私は、そういうささやかな気遣いこそが愛されている証拠なのだと信じていた。でも、今ならわかる。彼は私を大事にしてくれるけれど、それと同じくらい当たり前に、私を飛び越えて物事を決めてしまうのだ。「どうしてドレスが、莉緒のサイズに直されてるの?」拓真は不機嫌そうに眉を寄せた。「挙式のあと、一度着るだけだろ。頼んでたドレスが間に合わなくなったんだってさ。披露宴に着ていくものがないんじゃ、かわいそうだろ」「あれは、私のウェディングドレスよ」「紗英。莉緒はお前の妹なんだぞ。そんなわがまま言うなよ」まただ。子どもの頃、大切にしていたオルゴールを莉緒に壊されたときも、母は「妹なんだから」と言った。高校卒業のとき、ずっと楽しみにしていた卒業旅行が莉緒の合宿の都合で潰れたときも、父の瀬尾博之(せお ひろゆき)は同じ言葉を口にした。みんな、口を揃えて私に我慢しろと言う。莉緒が妹だというただそれだけで、私の持っているものは何もかも、当然のように半分は莉緒のものになってしまう。「どうして、先に私へ訊いてくれなかったの?」「お前なら、いいって言うと思ったから」「どうして私が、いいって言うと思ったの?」拓真はしばらく口をつぐんだ。「……莉緒、もう友達に言っちゃってるんだよ」ああ、そういうことか。彼は私の気持ち
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