美緒は私を見つめた。「好きじゃないなら、引き延ばさないで。早めに諦めさせてあげたら?」私は箸を置き、椅子の背もたれに寄りかかった。悠という人は、確かにすごく素敵な人だ。でも……「まだ心の準備ができてないの」と私は言った。美緒は私を見つめ、その瞳の好奇心は、少しずつ心配の色へと変わっていった。「弘恭のせい?」私はグラスを手に取り、ぐっと一口あおった。美緒は私の手を軽く叩いた。「焦らなくていいよ。どうせ二人ともまだ若いんだし」彼女はくすっと笑った。「それに悠って、すごく気長そうだしね」12月の第1週、弘恭がまた姿を現した。その日、仕事から帰って車をガレージに止めると、シャッターの前に誰かが立っているのが見えた。彼はダークグレーのコートを着て、街灯の下に立っていた。私は車を降りて鍵をかけ、バッグを手に歩み寄った。「何か用?」「渚、最近会社でちょっと問題が起きてな」「聞いたわ」彼は顔を上げて私を見た。「税務署の件、戻って手伝ってくれないか?」彼の目を見つめていると、ふと可笑しさがこみ上げてきた。「弘恭、会いに来たのは私に会いたかったから?それとも会社でトラブルがあったから?」「どうであれ」私は息を深く吸い込んだ。「会社のことなら力になれない。もうその業界にはいないの。税金のことは専門の事務所に頼んで。私を当てにしないで」「渚」「それと、もう来ないで。この家は私のものよ。あなたがここに立つ資格はないわ」彼の顔からさっと血の気が引いた。私は背を向けて階段を上がり、鍵を取り出してドアを開けた。「渚」彼が背後から私を呼んだ。私は振り返らなかった。「すまなかった」鍵を握る手がほんの一瞬止まったけれど、そのままドアを開けて中に入った。背後でドアが閉まった瞬間、私はドアにもたれかかり、そっと目を閉じた。それからほどなくして、事務所が大きな案件を受任することになった。ある上場企業が粉飾決算の疑いで証券取引等監視委員会から調査を受け、悠遠総合法律事務所にコンプライアンス弁護を依頼してきたのだ。この案件は係争額が莫大で、影響範囲も広く、悠が自ら陣頭指揮を執り、事務所中が目の回るような忙しさだった。私も大忙しだった。膨大な財務データの分析
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