足早に立ち去る昭彦の背中を見つめていても、私は涙を流すことすらしなかった。私は娘の奈々(なな)と手を繋ぎ、振り返って大通りへ向かい、タクシーを拾った。車内はひどく静かだった。奈々は後部座席に座り、食べかけの綿菓子をまだしっかりと握りしめている。タクシーが交差点の赤信号で停まった時だった。奈々は突然窓を開け、信じられないほど静かな動作で、頭につけていたピンク色のカチューシャを外した。それは、昭彦が遊園地の入り口で彼女に買ってあげたプレゼントだった。彼女は一切の躊躇も見せず、そのまま放り投げた。カチューシャは音もなく、道端のゴミ箱の底へと消えていった。運転手はバックミラーでそれを見て、驚いたように声をかけた。「お嬢ちゃん、可愛いカチューシャ、どうして捨てちゃったの?」奈々は運転手を見ようともしなかった。ただ、窓の外を飛ぶように過ぎ去る街並みを見つめたまま、幼いながらもひどく落ち着いた声で言った。「汚れたから、もういらないの……」その仕草を見て、私は胸が締め付けられた。分かっていた。彼女は、昭彦のことを「おじさん」と呼び慣れているだけではない。父親に対するほんのわずかな期待すらも、自身で断ち切ろうとしているのだ。家に帰ると、私は真っ直ぐ書斎に向かった。パソコンを開き、パスワードを入力し、隠しフォルダを開いた。プリンターが低い音を立てて動き始めた。やがて、2つの書類がプリントアウトされた。1つは、会社から出されたメルボルン支社への異動確認書だ。もう1つは、奈々の退学および転校の申請書だ。実は半年も前に、私は奈々をオーストラリアのサマーキャンプに参加させるという口実で、出国に必要なすべての書類に昭彦のサインをもらっていたのだ。あの時、彼は中身を見ようとすらしなかった。私はそれらの書類を茶封筒に入れ、しっかりと封をした。それから、物置部屋から大きなダンボール箱を引きずり出した。そして、ここからが不要なものの片付けだ。クローゼットの中、昭彦が買ってきた服はすべて、たとえ1度も袖を通していない高級なドレスであっても残らず選び出し、ダンボール箱に放り込んだ。おもちゃ箱の中、昭彦が適当に買ってきたぬいぐるみもすべて捨てる。奈々はお気に入りのウサギのぬいぐるみを抱き
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