All Chapters of 『「地味な君とは結婚できない」と捨てられた夜、見知らぬ男に求婚されました。翌朝、彼が世界最大級の財閥CEOだと知りました: Chapter 11 - Chapter 20

20 Chapters

第11話 「何か弱みでも握られているのか」と元婚約者に言われました

第11話 「何か弱みでも握られているのか」と元婚約者に言われました「本当に、結婚したの?」「うん。昨日、婚姻届を出したよ」 美緒がそう答えても、莉奈はすぐには反応しなかった。 会議室の入口付近には、まだ商談を終えたばかりの人々が残っている。資料を片づける社員、久我と言葉を交わしている役員、少し離れた場所には亮介と柊木家の人間たちもいる。 そんな中で莉奈は、美緒の左手と蓮司の顔を交互に見つめていた。「昨日って……お姉ちゃん、会社を辞めるって言った次の日じゃない」「そうだね」「そんなの、おかしいよ」 莉奈の言葉に、美緒は少しだけ眉を寄せた。「何がおかしいの?」「だって、そんな急に結婚なんてできるわけないでしょう? お姉ちゃん、亮介さんと別れたばっかりなんだよ。それなのに昨日いきなり、この人と結婚したって……」 莉奈はそこで蓮司を見た。 自分よりはるかに社会的な立場が上の人間だと理解しているからだろう。露骨に睨むことはしないが、戸惑いと警戒が入り混じった目をしていた。「神代社長……ですよね」「はい」「どうして、お姉ちゃんと?」 蓮司は答える前に美緒を見た。 話していいか、という確認なのだろう。 美緒は小さくうなずいた。「僕が結婚を申し込みました」「いつ?」「一昨日です」 莉奈の顔がさらに強張った。「一昨日……」「あなた方の婚約発表があった日の夜です」 蓮司は余計な感情を混ぜずに答えた。 その言葉だけを聞けば、確
last updateLast Updated : 2026-10-10
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第12話 私は、自分でこの結婚を選びました

第12話 私は、自分でこの結婚を選びました 父に電話をかけるだけなのに、美緒は十分近くスマートフォンを握ったまま動けなかった。 神代グローバル本社を出たあと、蓮司と遅い昼食を済ませ、二人でレジデンスへ戻ってきた。窓の外はすでに夕方の色へ変わりつつあり、遠くのビルの窓に西日が反射している。 広いリビングのソファに座り、美緒は父の名前が表示された連絡先画面を何度も開いては閉じていた。「今日はやめてもいいですよ」 少し離れたダイニングテーブルで仕事をしていた蓮司が言った。 ノートパソコンから目を離していないのに、こちらの様子は分かっているらしい。「やめません」「嫌なんでしょう?」「嫌です」「なら、明日でも」「明日になったら、今日よりもっと嫌になります」 美緒が答えると、蓮司はようやく画面から顔を上げた。「それは僕も経験があります」「神代さんでも、嫌な電話を後回しにするんですか?」「しますよ。相手が祖父なら特に」「……お祖父様への報告、まだなんですか?」 美緒が聞くと、今度は蓮司が黙った。 ほんの数秒。 それだけで十分だった。「まさか」「今日の夜に話します」「まだ言ってなかったんですか?」「結婚したこと自体は久我から日程を確保するために伝わっています」「それ、報告したことにならないですよね?」「なりませんね」「私には父へ今日話しましょうって言ってたのに」「言ってはいません。美緒さんが今日話すと言ったので、僕は尊重しただけです」「ずるいです」「はい」
last updateLast Updated : 2026-10-11
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第13話 夫の会社が元婚約者の会社を、本気で調べ始めました

第13話 夫の会社が元婚約者の会社を、本気で調べ始めました『蓮司を出せ!』 電話口から響いた神代征一郎の怒声に、美緒は思わずスマートフォンを耳から離した。 すぐ隣で蓮司が目を閉じている。「やはり、そこから怒られますよね」 あまりにも予想通りという顔をするので、美緒は緊張していたはずなのに笑ってしまった。「笑い事じゃないでしょう。お祖父様、ものすごく怒ってますよ」「知っています」『聞こえているぞ、蓮司! さっさと代われ!』「……地獄耳ですね」「スピーカーみたいな声量ですから」 美緒はスマートフォンを差し出した。 蓮司は受け取る前に、少しだけ美緒の顔を見る。「巻き込んですみません」「今さらです。ちゃんと怒られてください」「妻が味方をしてくれません」「今回はしません」「分かりました」 観念したように電話を受け取る。「代わりました」『お前は何を考えている!』 今度は美緒が離れていても内容が分かった。「結婚についてですか?」『それ以外に何がある! 結婚したことそのものを言っているのではない。相手の女性に、自分が何者か説明せず婚姻届を出させたとはどういうことだ!』「説明しようとはしていました」『提出したあとにな!』「はい」『それを世間では後出しというんだ!』 美緒は思わず蓮司を見た。 昨日、自分が追加した条件と同じ言葉である。 蓮司も気づいたらしく、こちらへ微妙な目を向けた。「美緒さんにも同じことを言われ
last updateLast Updated : 2026-10-12
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第14話 財閥の名誉会長に、「金目当てか」と試されました

第14話 財閥の名誉会長に、「金目当てか」と試されました 午後二時を少し過ぎた頃、蓮司が迎えに戻ってきた。 玄関の扉が開く音を聞いた瞬間、美緒はソファから立ち上がったものの、そのまま数歩進んだところで自分の服装が急に気になった。 ネイビーのワンピース。 昨日、蓮司と選んだものだ。 神代グローバル本社へ行くには十分だと思った。けれど、これから会う相手は神代征一郎である。 財界誌の表紙にもなったことがある、神代グループの名誉会長。 そして何より、蓮司の祖父だ。「やっぱり、もう少しちゃんとした服の方がよかったでしょうか」 リビングへ入ってきた蓮司に尋ねると、彼は美緒の姿を上から下まで見た。「十分だと思います」「神代さんはいつもそう言います」「では、僕以外の意見を聞きますか?」「誰に?」 そこへ蓮司の後ろから久我が顔を出した。「私でよろしければ、非常によくお似合いです」「久我さんまで」「ただ、名誉会長が服装で判断される方かという意味でしたら、あまり心配なさらなくても大丈夫かと」「そうなんですか?」「ええ。服の値段より、話した内容を十年後まで覚えているタイプです」「それ、別の意味で怖いんですけど」 美緒が言うと、久我は少しだけ笑った。「正しい反応だと思います」「久我、余計に緊張させるな」「先に現実をお伝えした方が親切かと」「あなたたち、本当に仲いいですよね」 美緒が言うと、二人がほぼ同時に微妙な顔をした。「長い付き合いではあります」「仕事上やむを得ず、です」「どっちが本当なんで
last updateLast Updated : 2026-10-13
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第15話 私が何度も警告していた問題が、全部残っていました

第15話 私が何度も警告していた問題が、全部残っていました 翌朝、美緒が目を覚ました時、蓮司の姿はもうなかった。 まだ六時半だった。 昨夜は神代征一郎との初対面を終えて帰宅したあと、二人で簡単な夕食を取り、柊木ホテルズの話を少しした。蓮司は「明日の朝、追加審査の会議がある」と言っていたものの、まさかこれほど早く出るとは思っていなかった。 枕元のスマートフォンには、一時間ほど前に届いたメッセージが残っていた。『起こすか迷いましたが、よく眠っていたので先に出ます。朝食は冷蔵庫にあります。無理に全部食べなくて構いません』 そこまで読んだところで、美緒は少し笑った。「無理に全部食べなくていいって……」 最初に出会った頃、自分が食事を取れていない蓮司を心配したことを、彼はまだ覚えているのだろう。 その下に、もう一文あった。『柊木ホテルズの件は、こちらで進めます。美緒さんが気にしていた資料について、確認できた事実だけ帰宅後に説明します』 美緒の指が止まる。 昨日、蓮司から聞いた。 現場が上げた改善要望のうち、経営会議まで届いていないものが多数ある。 しかも、その中には美緒自身が作った資料も含まれている可能性が高い。 考え始めれば、いくらでも悪い想像ができた。 亮介が止めていたのか。 途中の管理職が握り潰したのか。 あるいは、誰かが「重要ではない」と判断しただけなのか。 まだ分からない。 蓮司も、分からないことを断定しなかった。 だから美緒も、それ以上考えないようにした。 ベッドから出て、カーテンを開ける。 朝日が高層階の窓いっぱいに差し込んだ。 今日、美緒には仕事がない
last updateLast Updated : 2026-10-14
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第16話 私がいなくなって初めて、元婚約者は気づきました

第16話 私がいなくなって初めて、元婚約者は気づきました 退職手続きのためにロイヤル・オルビス東京へ戻る日、美緒は思っていた以上に緊張していた。 たった数日前まで毎朝通っていた場所である。従業員用入口の位置も、休憩室の自動販売機の癖も、バックヤードで午前九時を過ぎるとコーヒーの香りが強くなることも、何もかも知っている。 それなのに今日は、建物が少し遠く見えた。「送ります」 朝食を終えたところで蓮司に言われ、美緒はすぐ首を横に振った。「今日は一人で行きます」「分かりました」 思ったよりあっさり引いたので、逆に拍子抜けする。「理由、聞かないんですか?」「聞いてほしそうですね」「そういう言い方します?」 蓮司はコーヒーカップを置いた。「聞きます。なぜ一人で?」「最後くらい、自分の足で行って、自分で終わらせたいからです」 退職の意思を告げた時も、自分で言った。 戻らないと決めた時も、自分で決めた。 なら、その最後まで自分でやりたかった。「それに、神代グローバルのCEOの車で乗りつけたら、みんな余計に気を遣うでしょう」「それはあるかもしれません」「でしょう?」「では送りません。ただし帰りは?」「自分で帰れます」「そうではなく、迎えに行ってもいいですか」 美緒は少し考えた。「……終わったら連絡します」「ありがとうございます」「まだ迎えに来ていいとは言ってません」「連絡をもらえるだけで十分です」 またそうやって、こちらが断りにくくなることを言う。
last updateLast Updated : 2026-10-15
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第17話 夫の従妹は、私を「財産目当てでは?」と疑っていました」

第17話 夫の従妹は、私を「財産目当てでは?」と疑っていました」 美緒が次の仕事を探し始めて三日目の朝、神代家から新たな人物がやってきた。「初めまして。神代沙耶です」 リビングで名刺を差し出した女性は、蓮司より三歳年下の三十歳だという。 肩までの黒髪を隙なく整え、濃紺のパンツスーツを着こなし、化粧も装飾品も控えめだった。美人なのは間違いないのだが、笑顔になっても相手を観察する目だけは少しも緩まない。 名刺には、神代グローバルホールディングス法務統括室の肩書きが記されている。「こちらこそ初めまして。神代美緒です」 自分も名刺を出そうとして、美緒は手を止めた。「あ……すみません。今、名刺がなくて」「当然でしょう。退職されたばかりだと伺っています」「はい」「それに今日は仕事の面談ではありませんから、必要ありません」 言葉は丁寧だった。 けれど妙に硬い。 隣にいる蓮司を見ると、彼は何とも言えない顔をしていた。「沙耶」「何?」「最初からその調子なのか」「法的な話をしに来たのだから、遊びに来たような態度を取る方がおかしいでしょう」「美緒さんが緊張する」「その美緒さんは、あなたより落ち着いて見えるけれど」 沙耶の視線が戻ってくる。 美緒は思わず姿勢を正した。「緊張してます」「そうですか?」「かなり」「それなら普通ですね」「普通?」「神代家の財産に関する契約を初対面の親族と話すのに、まったく緊張しない人なら、その方が私は警戒します」 なるほど。
last updateLast Updated : 2026-10-16
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第18話 財閥CEOの妻ではなく、一人のホテルマンとして面接を受けました

第18話 財閥CEOの妻ではなく、一人のホテルマンとして面接を受けました グランド・ルミエール東京との面談当日、美緒はクローゼットの前で十五分ほど悩んでいた。 転職活動の面接なら、以前使っていた紺色のスーツでいい。そう思って自宅から持ってきたのだが、鏡の前に立つと、急に色々なことが気になってくる。 堅すぎないだろうか。 古く見えないだろうか。 七年間同じホテルで働いてきたため、本格的な転職面接を受けるのは新卒以来だった。「まだ着替えていなかったんですね」 寝室の入口から声がして、美緒は振り返った。 出勤前の蓮司が立っている。「ノックしてください」「しました」「聞こえませんでした」「かなり集中していたようなので」「服で悩んでたんです」 蓮司はベッドの上に並べた二着を見た。 一つは紺色のパンツスーツ。 もう一つは先日買ったネイビーのワンピースにジャケットを合わせたものだ。「どちらでも似合うと思います」「その答え、一番役に立たないです」「難しいですね」「面接なんですよ。ホテルの」「分かっています」「だったら、採用する側としてどう思います?」 聞いてから、美緒は「あ」と声を漏らした。「やっぱり今のなし」「なぜ?」「蓮司さん、ホテル事業も持ってる会社のCEOでしょう。助言をもらったら、なんか不公平な気がする」 蓮司は少し考え、それから真面目な顔で答えた。「では、夫として言います」「はい」「美緒さんが落ち着ける方で行けばいい」「&h
last updateLast Updated : 2026-10-17
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第19話 「社長夫人だから採る気はありません」――その言葉に、私はほっとしました

第19話 「社長夫人だから採る気はありません」――その言葉に、私はほっとしました グランド・ルミエール東京の二次選考は、最初の面談から四日後に決まった。 現場責任者と総支配人を交えた実務面接。 そう聞いた時から、美緒は妙に落ち着かなかった。 一次面談は、自分が何をしてきたかを話す場だった。しかし今回は、実際にその経験が通用するのかを見られる。 書類に書いた語学力。 七年間のホテル勤務。 VIP対応。 クレーム処理。 現場改善。 どれも嘘ではない。 それでも、前の職場では長く働いているうちに「水瀬さんならできる」が先に立つようになっていた。初めて会う人間たちが、自分をどう評価するのかは分からない。 朝食のパンを半分ほど残したところで、向かいに座っていた蓮司が口を開いた。「食欲がない?」「あります」「では、なぜ止まっているんですか」「考え事してました」「今日の面接?」「はい」 蓮司はコーヒーを飲みながら、美緒の皿へ視線をやった。「無理に食べろとは言いません。ただ、面接の途中でお腹が鳴ると、それはそれで気になるのでは」「……食べます」「それがいいと思います」 美緒はパンを一口かじった。「蓮司さん、緊張しないんですか?」「何に?」「大事な商談とか、初めて会う相手とか」「しますよ」「見えません」「見せないようにしているので」 意外だった。「神代さんでも?」「僕を何だと思っているん
last updateLast Updated : 2026-10-18
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第20話 初めて、自分の仕事に値段をつけました

第20話 初めて、自分の仕事に値段をつけました 条件面談の日程が決まったあと、美緒は人生で初めて「自分はいくらの給料をもらうべきなのか」を真剣に考えることになった。 これまで給与というものは、会社が決めるものだった。 昇給通知を受け取ればありがとうございますと言い、賞与額を見て少し喜んだり落ち込んだりする。それ以上のことを考えた経験はほとんどない。 まして、自分から希望額を口にするなど想像したこともなかった。 ところがグランド・ルミエール東京から届いた案内には、はっきり書いてある。『これまでのご経験、および想定する役割を踏まえ、ご希望の待遇をお聞かせください』 美緒は朝からノートパソコンの前で、その文章を何度も読み返していた。「……ご希望って言われても」 つい独り言が漏れる。 前職の年収を基準にすればいいのか。 同年代のホテルスタッフの相場を見るべきなのか。 今回提示されているのは、ゲストリレーション業務だけではなく運営改善プロジェクトの兼務だ。 なら責任は増える。 けれど、管理職経験はない。 英語は業務で使えるが、中国語は完璧ではない。 考えれば考えるほど、自分を高く言う理由と低く言う理由の両方が出てきた。「五十万くらい下げて言った方が……」「なぜです?」 突然背後から声がして、美緒は椅子の上で飛び上がりそうになった。「蓮司さん!」「はい」「いつ帰ってきたんですか?」「今です」「音しませんでしたよ」「しました」 またこの会話である。 蓮司はネクタイを緩めなが
last updateLast Updated : 2026-10-19
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