第21話 夫婦だったのに知らないこと 悠真と昼食を終えた澪がアルカディア本社へ戻ったのは、午後一時を少し過ぎた頃だった。 午前中を休みにしたとはいえ、午後からは共同ブランドの試作品確認と海外チームとのオンライン会議がある。エレベーターの中で髪をまとめ直し、頭を仕事へ切り替えようとしていたところへ、スマートフォンが震えた。 星野弁護士からだった。『御堂氏側より、前回協議事項について修正版が届きました。財産分与請求を行わない旨についても、後日の争いを避けるため合意書へ明記する方向で問題ありません。ただし、御堂氏本人から一度、婚姻中の私物について確認したいとの申し出があります。代理人を介した方がよろしければ、そのように対応します』 澪は画面を見ながら、少し考えた。 御堂邸には、まだ自分の物が残っている。 結婚後に買った高価な衣服や宝飾品については返却するつもりだったし、すでに一覧も作ってある。ただ、その中には自分が持ち込んだ本や、小さな裁縫道具、母の遺品なども混じっていた。 すべて家政婦にまとめてもらうこともできる。 その方が楽だ。 けれど、三年間暮らした家から自分の物を他人に選別してもらうことに、少し抵抗もあった。『私物については、私が一度確認に行きます。御堂さんが不在の時間でも構いません』 送信してからエレベーターを降りる。 すると数分もしないうちに、星野から返事が届いた。『御堂氏から「自分も立ち会いたい。ただし佐伯さんが嫌なら退席する」とのことです』 澪は思わず立ち止まった。 以前の蓮司なら、立ち会うのが当然だと言った気がする。 嫌なら退席する。 最近の彼は、こういう細かな部分まで少しずつ変わっている。 それが嬉しいのか、面倒なのか、自分でももう分からない。『構いません。明日の十
Last Updated : 2026-10-20 Read more