玲奈が空港で逮捕されたと連絡が入ったのは、その日の午後だった。詳しい逃走経路は、数日後、先輩が見せてくれた捜査記録と空港の監視カメラ映像で知った。玲奈は裁判所の外でタクシーを拾い、そのまま成田空港へ向かっていた。タクシーのドライブレコーダーには、切羽詰まった声も残されていた。「運転手さん、第1ターミナルへお願いします。できるだけ急いで。飛行機に乗り遅れるわけにはいかないの」後部座席で身を縮めた玲奈は、何度も携帯を確認していた。ニュースの検索結果やネットの掲示板には、すでに『10億円規模の相続財産』『強制入院』『相沢修司逮捕』に関する投稿が次々に上がっていた。玲奈のSNSアカウントにも、スポンサー契約の打ち切りを求めるコメントが殺到していた。『人の財産目当てに、本人を閉じ込めたってこと?』『まず警察で事情を聞かれてこい』『案件出してたブランド、説明するべきじゃないの?』捜査記録には、玲奈がタクシーの中で何度も修司へ電話したと記されていた。当然、つながるはずはない。空港に着いた玲奈は、大きなスーツケースをひとつ持っていた。あとで押収品の一覧を見て、初めてわかった。中に入っていたのは、私のクローゼットから消えたダイヤのネックレスや高級腕時計、そして外貨の現金だった。玲奈はサングラスとマスクで顔を隠し、パリ行きの便のチェックインカウンターへ向かった。午後1時ごろ。出国エリアの監視カメラに映る玲奈の足取りが、次第に速くなった。何度も振り返り、パスポートを握る手は、目に見えて震えていた。そのころ捜査班は、裁判所で得た供述と資料をもとに、玲奈の共犯の疑いを確認していた。逃走の形跡が確認されると、出国を差し止める措置と逮捕の手続きが、並行して進められた。玲奈が出国審査の自動化ゲートへ入った瞬間、画面に、通過できないことを知らせる表示が出た。ピピッ。玲奈は、もう一度パスポートをかざした。また、同じ表示だった。「どうして開かないの? もう搭乗時間まで、あまりないんですけど」近くの職員が本人確認を求めている間に、空港の警察官と捜査員たちが、出国エリアへ入ってきた。玲奈は航空券の画面を職員に突きつけ、繰り返し急かした。けれど職員は、通過の可否を勝手に変えることはできないと説明する。そのわずか数分の間に、捜査員たちが距離を詰めた。そこでよ
Last Updated : 2026-10-05 Read more