クリスタルのグラスの中で、氷がからんと鳴った。その向こうで、夫の相沢修司がわずかに口の端をつり上げた。「美月、ずいぶんやつれたな。ご両親が遺した10億円規模の財産、もうすぐ名義の整理だろ。最近、気を張ってばかりだったもんな。好きなザクロのビタミンジュース、冷たくしておいたよ。これ、ちゃんと全部飲んで。今日こそゆっくり寝てくれ」夫が差し出した、濃い紫色の飲み物。見た目は、毎朝食卓に置かれていた甘いフルーツジュースと変わらない。それなのに、表面に細かく浮かぶ灰色がかった泡と、鼻先をかすめる苦い鉄のような臭いが、妙に引っかかった。「……何、この味。いつもよりずっと苦いし、変な臭いもするんだけど」「気のせいだよ。オーガニックの濃縮液を、いつもより濃くしただけ。残さないで、さっさと飲んじゃいな」修司の目に、一瞬だけ焦りと粘りつくような欲がよぎった。その薄気味悪い視線に気づいた瞬間、私はとっさにグラスを唇へ運ぶふりをして、テーブル脇にある大きな観葉植物の鉢へ、半分以上をそっと流した。けれど、唇を濡らし、喉の奥へ落ちたたったひと口だけで、世界が激しく揺れ始めた。どくん、どくん、どくん――。心臓が肋骨を突き破りそうな勢いで暴れだす。頭の中の神経が、一本残らず白く焼け切れていくようだった。リビングの壁紙も大理石の床も、不気味にねじれ、黒い沼となって私をのみ込んだ。手足から力が抜け、指先から冷たいしびれが広がっていく。息を吸うたび、肺の奥に焼けるような痛みが走った。「しゅ、修司……これ……いったい、何の薬を入れたの……?」床に倒れ込んだ私の耳に、寝室のドアが開く音が届いた。むっとするほどのマグノリアの香水とともに、白いシルクのスリップドレスを着た女が、ヒールを鳴らして現れる。篠原玲奈。修司が大学時代から忘れられず、ずっと想い続けてきたという初恋の相手。そして、今は不倫相手だった。「まあ、修司さん。すごい効き目ね。やっぱり製薬会社に勤めてると、こんなお薬を持ち出すのも簡単なんだ?」玲奈は媚びるように笑い、修司の首に腕を絡めた。修司は床で息をあえがせる私を、汚い虫でも見るように見下ろしながら、玲奈の腰を乱暴に引き寄せた。「あと1週間の辛抱だ。あいつの親が遺した、港区のビルを含む10億円規模の資産。俺が成年後見人にさえなれば、まず金の流れを押さえられ
ปรับปรุงล่าสุด : 2026-10-05 อ่านเพิ่มเติม