その日から、母はどこかぼんやりするようになった。何をするにも、私の骨壺を手放そうとしない。眠るときは胸に抱き、食事のたびには骨壺の前に小さな膳を整える。ある夕暮れ、母は豚の角煮を一切れ、骨壺の前の小鉢にそっと置いた。「青葉、これは母さんが自分で作ったの。食べてみて。口に合うかどうか分からないけど」私は宙に浮いたまま、脂がつやつやと光る角煮を見つめ、小さく呟いた。「私は胃が弱いから、脂っこいものは食べられない」その言葉がこぼれた瞬間、母の肩がびくりと震えた。何かが聞こえたかのように、母は箸でその角煮をつまみ上げ、そっと皿に戻した。そして涙を流しながら、いちばんあっさりしたお浸しや煮びたしを、骨壺の前へ少しずつ並べ直していった。「そう、そうよね。脂っこいのはだめだったわね。母さんが入れ替えるから……」父は傍らに立ち、抜け殻のようになった妻を見て、苦しそうに目を伏せた。口を出す勇気も、出す資格も、もうなかった。数日後、母が風呂に入っている隙に、父はついに耐えきれず、人に頼んで骨壺を持ち出させた。そのまま墓地へ運び、菩提寺に頼み込んで、ひそかに納骨を済ませる。風呂から出た母は、骨壺がないことに気づいた。次の瞬間、母は狂ったように家中を探し回り、部屋という部屋を滅茶苦茶にした。やがて台所に立ち尽くし、包丁を握ったまま父を振り返る。「青葉をどこへやったの」泣き叫ぶでもなく、底の抜けたような声だった。そのひと言で、小林家は地獄になった。そこへ、家を追い出された兄の大樹が戻ってきた。無精髭を生やし、目の下には濃い隈が浮かんでいる。「母さん、もうやめてくれ……」兄は床に膝をつき、嗚咽をこらえきれないまま言った。「青葉はもういないんだ……あいつはこの家にいたのに、俺たちは誰もちゃんと見ようとしなかった。気にかけてもやらなかった。俺たちは……まともな服ひとつ、買ってやったこともない」彼は震える手で顔を覆い、途切れ途切れに続ける。「この数日、俺は青葉の真似をして、押し入れや木箱みたいな狭い場所に体を押し込んでみた……あいつは、ああいうふうに囲まれていないと、落ち着けなかったんだと思う。俺たちは……青葉がここにいてもいいと思える場所を、ひとつも与えてやれなかった」その言葉を
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