抵抗する気力もなく、私はそのまま目を閉じた。静かに死を待つつもりだった。けれど。鈍い音と短い悲鳴がして、次の瞬間、階段を転げ落ちていったのは私ではなく、桃華のほうだ。勢い余って、自分で足を踏み外したらしい。おかげで私は、桃華の突き落としからあっさり逃れることになった。私はそっと目を開け、小さく肩をすくめた。残念。死ねなかった。階下から、桃華の引き裂くような泣き声が響いてくる。私はそれを無視して、静かに死ねそうな場所を探すことにした。ぐるりと見回した先で、トイレの天井にある、半端に開いた換気ダクトが目に入る。薄暗い。狭い。鉄板に囲まれている。棺桶みたいで、落ち着く。手際よく這い上がると、その中に身を収め、両手を腹の上で組んで目を閉じた。ほどなくして、下の階から桃華の泣き声が聞こえてきた。「お姉ちゃんが……本当の娘が戻ってきたんだから、私はもう邪魔なんだって……」しゃくり上げる声に混じって、途切れ途切れの訴えが聞こえてくる。「それで、階段から突き落とそうとしたの……」その声に、下の階が一気に騒がしくなった。両親と兄の小林大樹(こばやし たいき)が、怒りをあらわにしたまま2階へ駆け上がってきた。家中の部屋を探し回り、最後に兄がトイレのドアを乱暴に開け放つ。懐中電灯の光が天井をなぞり、換気ダクトの中で横たわる私を照らし出す。一瞬、空気が凍りつく。桃華の泣き声が、嘘みたいにぴたりと止んだ。母の美由利(みゆり)が震える指で天井を指す。「今……この子が、あなたを突き落としたって?」桃華の顔色がさっと変わる。けれど次の瞬間には、もう泣き顔を作り直していた。母にしがみつき、しゃくり上げる。「ちがうの……私、お姉ちゃんに挨拶しようとしただけなの。なのに避けられて、そのあと天井のほうから音がして……びっくりして足を滑らせちゃって、その拍子に、お姉ちゃんに押されたんだって思い込んじゃったの……」母の服を握りしめたまま、桃華は涙声で続ける。「お姉ちゃん……私のこと嫌いなの?お化けの真似までして、私を追い出したいの?」それを聞いた大樹は、ダクトの中の私をきつく睨みつけた。「青葉!何を考えてる。なんでそんなところに潜り込んでるんだ!桃華を怯えさせて、階段から落とすつ
Read more