小さな会議室の前で、千尋は自分の名前を聞いた。「白石主任の件は、もう話さないでください。未確認の話で、社員を困らせるのはやめましょう」雅彦の声だった。向かいに、別の部署の係長が二人立っていた。千尋が足を止めると、一人が先に気づき、ぎこちなく笑った。「いらしたんですね。特別な話をしていたわけでは、ないんですが」千尋は抱えていたタブレットを、胸の前から下ろした。「何か、ありましたか」雅彦が柔らかく口を挟んだ。「星友側は、親戚の会社だそうですね。実務で意見を言うのは、気まずいのでは、という話でした。心配することではないと、私が言いました」もう一人の係長が頷いた。「業者が、白石主任のことを少し話していました。最近、上の関心をかなり集めている、と。私たちも、いい意味だと思っていたんですよ」千尋は一瞬、タブレットを重く感じた。いい意味だ、という言葉の後ろに何があったか、最後まで問い詰めたくはなかった。だからといって、知らないふりで通り過ぎれば、次には、その意味が、少し大きくなりそうだった。「業者と親戚であることは、課長に報告しています。今回の案内案は、私たちの課で検討しました。資料が必要なら、共有できる範囲でお送りします」答え終えると、相手は慌てて手を振った。「いえ。そういうものを要求したわけでは、ありません」雅彦はもう一度笑い、会話を終わらせた。二人の係長がエレベーターへ向かうと、彼は千尋の隣で、歩調を合わせた。「嫌な気分になったでしょうね」「私のいないところで、業務について推測されるのは、少し困ります」「だから、止めました。あまり、気にしないでください」千尋は礼を言った。雅彦が実際に、話を止めてくれたことも、事実だった。けれど、止めなかったらどんな会話が続いたかより、千尋へ話す間、何を省いたのかが気になった。「次の中間点検では、課長が説明してはどうでしょう?」やはり、同じ方向だった。千尋が答えるより先に、雅彦が付け加えた。「白石主任の役割を、奪おうという話ではありません。結果表の名前は残して、質問は上司が受けるんです。こういうときは、実務担当者を守らなければ」「私の作業内容への質問なら、私が答えるほうが早いです」「早ければ、いつもいいわけではありません。相手が、別のことを聞いたら?」その言葉に、千尋は背中が壁に付くような気
Terakhir Diperbarui : 2026-10-08 Baca selengkapnya