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あなたの子ではありません のすべてのチャプター: チャプター 11 - チャプター 13

13 チャプター

第10話 断絶

「紗奈、そろそろ携帯を買い替えたらどうだ?」休日の朝、父が新聞を読みながら言った。「え、どうして?」「昨日も充電が切れたって言ってただろう。もう何年使ってるんだ」「四年くらいかな。最近、急に電源が落ちることがあって」「それなら買い替えた方がいい。湊を連れて出かけたときに使えなくなったら困るだろう」確かに、その通りだった。先日もスーパーで買い物をしている最中に電源が落ち、母からの電話に気づかなかったことがある。「そうだね。今日、見に行ってこようかな」「湊は私たちが見てるから、ゆっくり行ってきなさい」母が台所から顔を出した。「え、いいの?」「もちろん。たまには一人で出かけてきたら?」紗奈は少し迷ったものの、ありがたく甘えることにした。湊が生まれてから、一人で外出する機会はほとんどなかった。久しぶりに身軽な格好で家を出ると、秋の風が頬を撫でた。もう夏も終わりに近づいている。***携帯ショップは、休日ということもあって混雑していた。受付を済ませてから三十分ほど待ち、ようやく名前を呼ばれる。「本日は機種変更ですね」「はい。最近、電池の持ちが悪くて」「かしこまりました。ちなみに、電話番号はそのままお使いになりますか?」店員の何気ない質問に、紗奈は顔を上げた。「……番号って、変えられるんですか?」「はい。新しい番号でご契約いただくこともできますよ。ただし、その場合はご家族やご友人に新しい番号をお知らせいただく必要があります」「そうなんですね」紗奈は膝の上に置いたバッグに目を落とした。電話番号を変える。今まで、そんなことは考えてもいなかった。けれど、その言葉を聞いた瞬間、ある人の顔が浮かんだ。東條怜司。昨夜も、彼からメッセージが届いていた。『白石。来月、少し時間を作れないか。君に会って話したいことがある』その文章を、何度読み返しただろう。会いたいとしっかり言葉にされたのは初めてだった。私にだって伝えたいことはたくさんある。それでも、一度返事をしてしまえば、きっと彼は会いに来る。仕事でも、一度決めたことは必ず実行する。曖昧な態度で引き下がるような人ではない。「お客様?」店員に声をかけられ、紗奈は我に返った。「あ、すみません」「いえ。お電話番号はいかがなさいますか?」紗奈は少し考えてから、口を開いた。
last update最終更新日 : 2026-10-11
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第11話 忘却

「まま!」 背後から元気な声が聞こえた。 振り返ると、湊が小さな靴を片方だけ持って立っていた。 「湊、お靴履きたいの?」 「ん!」 「じゃあ、もう片方はどこかな?」 湊は手元の靴を見つめ、それから部屋の中をきょろきょろと見回した。 「あれ? なくなっちゃった?」 「ない!」 「困ったねえ」 私が笑うと、湊も嬉しそうに笑った。 最近の湊は、何でも自分でやりたがる。 靴を履くのも、スプーンを持つのも、私が手伝おうとすると首を振る。 もっとも、靴は左右逆になるし、スプーンで食べるより手で食べた方が早い。 それでも、できることが少しずつ増えていく姿を見るのは楽しかった。 「紗奈、湊の靴ならソファの下にあったわよ」 母がもう片方の靴を持ってきてくれた。 「ありがとう、お母さん」 「はい、湊くん。これでお出かけできるわね」 「ばあば!」 湊は母から靴を受け取ると、私の膝にちょこんと座った。 「ふふ。自分で履くんじゃなかったの?」 「まま」 「はいはい。お手伝いします」 小さな足に靴を履かせる。 ほんの少し前まで、抱っこしていなければどこにも行けなかったのに。 今では自分の足で玄関まで歩いていく。 子どもの成長は、本当に早い。 *** 今日は湊と二人で、商店街まで買い物に行く予定だった。 ベビーカーに乗せようとすると、湊は嫌がって両手を伸ばしてきた。 「歩きたいの?」 「ん!」 「じゃあ、少しだけね」 手をつないで歩き始めると、湊は一歩ごとに足元を確かめるように進んだ。 道端の花。 電柱の影。 風に揺れる木の葉。 大人なら気にも留めないものが、湊にはどれも新鮮らしい。 「まま、あ!」 湊が指さした先には、小さな犬がいた。 「わんわんだね」 「わん!」 「そうそう、わんわん」 飼い主の女性が微笑み、犬も尻尾を振った。 湊は嬉しそうに笑ったけれど、犬が近づいてくると、慌てて私の足にしがみついた。 「怖かった?」 「……わん」 「大丈夫だよ」 しゃがんで抱き上げると、湊は私の肩に頬を寄せた。 商店街に着く頃には、湊はすっかり疲れてベビーカーの中で眠っていた。 「お疲れさま」 小さな寝顔を覗き込み、そっと日よけを下ろす。 すると、鞄の中でスマートフォンが震えた。 悠真からだった。
last update最終更新日 : 2026-10-13
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第12話 予兆

十月の空は高く澄み渡り、窓から差し込む陽射しも柔らかくなっていた。湊はリビングの床に積み木を広げ、朝から夢中になって遊んでいる。「できた!」湊が得意そうに声を上げた。見ると、積み木が三つ、少し傾きながらも積み上がっている。「すごい、湊! 上手にできたね」私が拍手をすると、湊も嬉しそうに手を叩いた。その拍子に積み木が崩れる。「あーあ!」湊は散らばった積み木をしばらく見つめ、それから何事もなかったように、もう一度積み始めた。私はその隣で、家計簿を開いていた。湊が生まれてから、出費は少しずつ増えている。食費に日用品、季節ごとの洋服。これから先は、もっとお金がかかるだろう。今は実家に住まわせてもらっているおかげで、生活に困ることはない。両親も、湊との暮らしを楽しんでくれている。それでも、いつまでも甘えているわけにはいかなかった。そろそろ、仕事を探さないと。私は家計簿を閉じ、スマートフォンで近所の求人情報を調べ始めた。事務職の募集はいくつか見つかったけれど、勤務時間を見ると、どれも簡単には決められそうにない。働くなら、湊を保育園に預ける必要がある。「……保育園かあ」思わず声に出すと、湊が顔を上げた。「まま?」「ううん。何でもないよ」湊は私の膝に寄りかかり、積み木を一つ差し出した。「これ?」「ん!」受け取って積み上げると、湊は満足そうに笑った。できれば、もう少しこうして一緒に過ごしたい。初めてできることが増えるたび、すぐそばで見ていたかった。でも、湊のこれからを考えれば、少しずつ生活を整えていく必要がある。私は求人サイトを閉じ、今度は近所の保育園を調べてみた。「紗奈、何を見てるの?」洗濯物を畳み終えた母が、隣に座った。「保育園。そろそろ仕事を始めようかなと思って」「あら、そうなの?」「うん。貯金だけで生活していくわけにもいかないし」「お金のことなら、そんなに急がなくてもいいのよ」「ありがとう。でも、ちゃんと自分でも稼ぎたいから」母は私の顔を見て、それから湊に目を向けた。「……本当は、まだ一緒にいたいんでしょう?」「うん。できれば、もう少しね」そう答えると、母は優しく笑った。「じゃあ、焦って決めなくてもいいわ。ゆっくり見学にでも行って、納得できるところを探しましょう」「そうだね」私は画面に表
last update最終更新日 : 2026-10-14
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