大きな声を出したわけでもないのに、翔也の母がやってきた。テレビをちらりと見ると、不機嫌そうにソファに腰を下ろした。「もういいでしょ。こっちは旅行から帰ったばかりで、飛行機でくたくたなのよ。あんたの顔色までうかがってられないわ」翔也の母は手にしていた冷蔵庫用のマグネットをまとめてこちらに放り、顎をしゃくった。「ほら、お土産。いい加減にしなさいよ。あの二人はもう離婚したんだから、今さら騒いだって仕方ないでしょ」さらに壁に飾られたウェディングフォトを指さし、苛立った様子で続けた。「男にだって過去くらいあるでしょ。今はあんたの旦那なんだから、ちゃんと尽くしなさいよ。昔の女にいつまでも焼きもち焼いて、馬鹿じゃないの?」両親も荷物を置くと、翔也の母の後ろに立った。二人とも何も言わず、ただ責めるような目で私を見ていた。胸の奥が少しずつ冷えていった。「お父さんもお母さんも、どうして今まで隠してたの?私、実の娘なのに……」「だって、うちの生活を支えてくれてるのは翔也さんじゃない!」母はすかさず言い返すと、今にも指を突きつけそうな勢いで私に詰め寄ってきた。「あの二人は留学中ずっと一緒にいたのよ。好きになったっておかしくないでしょ?むしろ、後から割って入ったのはあなたのほうじゃない。萌花ちゃんはあなたに文句一つ言わず、結婚式では笑顔でブライズメイドまで務めてくれたのよ。それなのに、どうしてあなたが被害者みたいな顔してるのよ!」父もお茶を一口すすり、口を開いた。「翔也君はお前との結婚が決まったとき、ちゃんと俺たちに話してくれたぞ。前に海外で結婚して、息子もいるってな。その埋め合わせに、俺たちに家を買ってくれたんだ」胸の奥に何かがつかえたようで、息が詰まるほど苦しかった。家を一軒買ってもらっただけで、両親は口をつぐみ、すっかり翔也の味方になっていたのだ。何も知らず、馬鹿みたいに目の前の人たちを信じ、感謝して、何も惜しまず尽くしてきた。両親はそんな私を、ずっと黙って見ていたというのか。その場から一歩も動けないまま、私は必死に涙をこらえ、顔を上げて尋ねた。「家を買ってもらっただけで、私のことなんてどうでもよくなったの?二人の関係を知ってたのに、私に佑人を育てさせてたんでしょ?そんなに萌花のほうが大事なの?」母は怒りを
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