西園寺莉乃が帰国してからというもの、玲司が深夜になっても自宅へ帰ってくることはほとんどなくなった。 静まり返った広いリビングで、葵はひとり冷めた紅茶を前に座り続けていた。 理由を尋ねる必要すらない。かつて愛した女性が異母弟・陸との婚約を発表し、同じ神崎の本邸に身を寄せているのだ。玲司が家にいたくない理由など、いくらでも思い当たった。 (……きっと、苦しいのね) 本当に好きな人が、すぐ手の届く場所にいるのに、弟の婚約者という立場になってしまったのだから。 葵は、胸の奥で燻る痛みを押し殺しながら、自分を納得させるように深く息を吐いた。 日付が変わり、深夜二時を回った頃。 重い玄関のドアが開き、酒の匂いを纏った玲司が帰宅した。普段は完璧に乱れのない彼が、珍しく千鳥足で廊下を歩いてくる。 「……玲司さん? 大丈夫ですか」 葵が駆け寄り手を差し伸べた瞬間、玲司は力強い腕で葵の身体を引き寄せた。 芳醇なアルコールの香りと、彼特有の清廉な体臭が葵の鼻腔をくくぐる。 「……葵」 掠れた低い声で名前を呼ばれたかと思うと、葵の身体はそのままソファへと押し倒されていた。 抗う隙すら与えられないまま、乱暴でどこか焦燥感の滲む唇が重ねられる。何度も、何度も、息が詰まるほどの強い力で。 「……待って、玲司さん、お酒が……っ」 顔を背けようとする葵の顎を、玲司の長い指が強引に固定する。熱を帯んだ眼差しが、葵の瞳を射抜いていた。 「……嫌なら、そんな顔をするな」 静かだがどこか苛立ちを含んだ声。 葵の身体は、拒もうとしても彼の体温に触れるたび、三年間で刻み込まれた本能が反応してしまう。 (……ねえ、玲司さん。お酒の勢いでも……こんなに激しく私を求めるのは、ほんの少しでも私を必要としてくれているからなの……?) 縋るような淡い問いかけは声にならず、ただ熱い吐息の中に消えていく。 情熱的で、逃げ場のない愛撫。身を委ねながらも、葵の胸には確信の持てない不安と切なさが渦巻いていた。 ——行為が終わり、静寂が戻った寝室。 玲司がシャワーを浴びるためにベッドを離れた隙に、葵は乱れた身なりを整え、壁に掛けられた卓上カレンダーへと視線をやった。 【10月14日】 その日付を目にした瞬間、葵の頭の中で、バラバラだったピースが一
Última atualização : 2026-10-14 Ler mais