新居のドアは、母が合鍵を使って開けた。部屋の明かりは消えたままで、未那は戻っていなかった。リビングにあった【処分するもの】と書かれた段ボールはすでに空になり、きれいに折り畳まれて壁際に立てかけられている。母はそれをちらりと見て一瞬足を止めたが、そのままゲストルームへと向かった。ベッドの脇に、未那のスーツケースが立ててあった。ファスナーは半分開いたままだった。母はしゃがみ込み、中身をひとつずつ床へ取り出していった。服、化粧品、何枚かのレシート。診断書もなければ、薬の瓶ひとつ出てこない。スーツケースの底にある隠しポケットに触れたところで、母の手が止まった。ポケットのファスナーは糸で縫いつけられていて、縫い目は不自然に粗く、歪んでいた。母は爪を立て、必死に糸をほどいた。中から、白い薬の箱が転がり落ちた。箱には薬局のラベルが貼られ、私の名前が印字されている。その横には、森下先生の手書きのメモが貼られていた。【予備。すぐ手の届くところに置いておくこと】母は箱を開けた。錠剤のシートが未開封のまま入っており、1錠も減っていなかった。母は床に膝をつき、錠剤を1錠ずつ数え始めた。私は母の背後に漂いながら、その様子を見ていた。祖母の家にいた数日間、私もこうして1錠ずつ数えていたのだ。ただ私の場合は、数えるたびに残りが減っていった。母が最後まで数え終えても、薬の数は減っていなかった。「捨ててなかった……」誰かを起こしてしまうのを恐れるかのように、母の声はひどくかすれていた。「希美の目の前で、捨てたって言ったのに……」あの日、私が空っぽになった引き出しを前にして絶望したとき、この薬は隣の部屋にあったのだ。私から10メートルも離れていない場所に。そのとき母はリビングにいて、家政婦と一緒に私の服を無造作に段ボールへ詰め込んでいた。久弥と兄が駆けつけたとき、母はまだ床に膝をつき、薬の箱を強く握りしめていた。箱を見た久弥は、戸口で凍りついた。彼が思い出したのは、未那のことではなかった。あの日、空の引き出しの前に立った私が、もう4日も薬を飲んでいないと告げたこと。あのとき自分が何と答えたか。今はそのひと言さえ、思い出したくなかった。兄が歩み寄り、ポケットから開封された形跡すらな
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