All Chapters of 生きたまま葬られた私の、最後ののぞみ: Chapter 21 - Chapter 22

22 Chapters

第21話

納骨の日は、朝から雨が降っていた。激しい雨ではない。霧のような細い雨が、朝から昼まで絶え間なく降り続いていた。墓地の鉄の門は開いていて、門の内側には森下先生と千尋、それに係の人が2人立っていた。門の外には、小湊家の家族と久弥が立っていた。前の晩、久弥は墓地の使用許可に関する書類を森下先生に手渡していた。「この墓を用意したのは俺です。でもあいつがここに入るなら、もう俺が取り仕切る資格はありません」森下先生は書類を受け取り、彼を一瞥した。「彼女がカードに書いたことはふたつです。そのどちらにも、あなたたちに見送ってほしいとは書いてありませんでした。来るのは構いません。外にいてください」彼はうなずき、反論しなかった。係の人がまず、管理事務所に預けてあったあの空の骨壺を運んできた。そのそばには、未那が供えた手紙も残されていた。封筒には【お姉ちゃんへ】と書かれている。森下先生は封筒を開けずに、空の骨壺と一緒に門の外へ差し出した。母が震える手を伸ばし、骨壺と封筒を受け取った。骨壺は軽かった。まるで何も入っていないかのように軽かった。偽の葬儀のとき、母はこの骨壺を抱えて、お墓の前で立っていられないほど泣いていた。今度は、母は封筒から手紙を取り出し、皆の見ている前で粉々に引き裂いた。破れた紙片は雨水の中に落ち、たちまちふやけていった。それから母は空の骨壺を抱えたまま門の外に立ち尽くし、もう動かなかった。森下先生は私の骨壺を抱え、1歩、また1歩と、お墓の前へ歩いていった。千尋が傘をさして寄り添い、その手には祖母のマフラーがあった。納骨室の蓋が開けられた。森下先生はしゃがみ込み、骨壺をそっと中へ納めた。千尋はマフラーを畳み、骨壺の上にそっと置いた。森下先生は鞄から、あの付箋と【お母さんの誕生日】と書かれた封筒、それに4冊目のノートを取り出し、マフラーのそばにまとめて納めた。「彼女が貯めたものも、書き残したものも、一緒に持たせてあげましょう」門の外でその封筒を見た母は、口を押さえてしゃがみ込んだ。久弥は、ずっと雨の中に立っていた。手にはあの黒い長傘を持っていたが、開かなかった。髪から水滴が滴り落ち、スーツはずぶ濡れになって肌に張りついていた。兄が自分の傘を彼のほうへ差
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第22話

墓誌の文字を彫り直したのは、1か月後のことだった。石材店の職人が、どのように直すかを確認した。母は墓誌に刻まれた「愛娘」の文字を、長いこと見つめていた。その横には、以前自分たちが希望して入れた、希美の名前が刻まれている。「この文字は、消してください」母は静かに言った。「私に、あの子をそう呼ぶ資格はありません」隣に立っていた久弥も、しばらく黙ったあと口を開いた。「『愛妻』も、消してください」後日、職人は指定された文字を少しずつ削り落とし、表面を磨き直した。墓誌に残ったのは、私の名前だけだった。坂梨希美。その前に誰かの呼び名もなく、そのあとに誰かの名前もない。まっさらな、私だけの名前。その年の秋、未那の件について捜査の結果が出た。薬を隠したことも、病状を偽ったことも、次々と明らかになり、彼女には、その行為に応じた処分が下された。小湊家は未那との離縁手続きを進めた。留学先の学校にも、すでに籍はなく、彼女の手元にはほとんどお金が残っていなかった。その後、小さな食堂の厨房で、彼女を見かけたという人がいた。洗い場に立ち、両手は水仕事で白くふやけていたという。彼女に気づいた客が、墓地での一件を店の従業員たちに言いふらした。翌日、彼女はその店を辞め、別の店に移った。それからほどなくして、また別の店に移った。彼女は相変わらず、自分は心の病を抱えていると言っているらしい。けれどもう、耳を貸す人はどこにもいなかった。母は毎月1回、あのバスに乗るようになった。病院から家まで乗り、家からまた病院まで戻る。腰の具合は次第に悪くなり、降りるたびに手すりにつかまって、しばらく立っていなければならなかった。母は、ついにあのマッサージチェアを買うことはなかった。お墓参りに来るたび、母は栗まんじゅうをひとつ、墓前に供えた。あるとき、母はそこにしゃがみ込んで、そっと言った。「希美、お母さん思い出したの。あなたも小さいころ、これが好きだったわね。あのとき未那も欲しがったから、お母さん、あなたの分まであの子に譲らせてしまったのよね。あなたは泣かないで、ひとりで庭に遊びに行ったのよね」私は母の後ろに立っていた。母は、思い出したのだ。20年以上も遅れて。父は煙草をやめた。
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