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第17話

Autor: 澄河
クローゼットのうち、私が使っていた半分のスペースは、彼が記憶しているよりもずっと、がらんとしていた。

葬儀の前に母が服を段ボールに詰め、棺に納めるもの以外、その大半を捨ててしまったからだ。

残された数着は、未那のワンピースに場所を奪われ、いちばん奥の隅へ追いやられていた。

久弥は未那の服を1着ずつ取り出し、床へ次々と放り出した。

クローゼットのいちばん奥に、紙の箱がひとつ置かれていた。

青いリボンが結ばれ、その下にカードが1枚挟まっている。

【3回目の結婚記念日、おめでとう】

私たちの結婚記念日は、来月に迫っていた。

久弥がリボンをほどくと、箱の中には黒い長傘が1本入っていた。

柄には、小さな文字が刻まれている。

【これからは雨の日も、外で待たなくていいよ】

傘の下には、手紙が1通挟まっていた。

封はされていなかった。便箋を取り出す彼の手は、小刻みに震えていた。

【久弥へ

この手紙を書いている今、あなたは書斎で未那とビデオ通話をしている。私は邪魔しなかったわ。

本当は、ずっと気づいていたことがある。

あなたが初めて、私の笑顔が綺麗だと言ってくれたとき、あ
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    クローゼットのうち、私が使っていた半分のスペースは、彼が記憶しているよりもずっと、がらんとしていた。葬儀の前に母が服を段ボールに詰め、棺に納めるもの以外、その大半を捨ててしまったからだ。残された数着は、未那のワンピースに場所を奪われ、いちばん奥の隅へ追いやられていた。久弥は未那の服を1着ずつ取り出し、床へ次々と放り出した。クローゼットのいちばん奥に、紙の箱がひとつ置かれていた。青いリボンが結ばれ、その下にカードが1枚挟まっている。【3回目の結婚記念日、おめでとう】私たちの結婚記念日は、来月に迫っていた。久弥がリボンをほどくと、箱の中には黒い長傘が1本入っていた。柄には、小さな文字が刻まれている。【これからは雨の日も、外で待たなくていいよ】傘の下には、手紙が1通挟まっていた。封はされていなかった。便箋を取り出す彼の手は、小刻みに震えていた。【久弥へこの手紙を書いている今、あなたは書斎で未那とビデオ通話をしている。私は邪魔しなかったわ。本当は、ずっと気づいていたことがある。あなたが初めて、私の笑顔が綺麗だと言ってくれたとき、あなたが見つめていたのは、私の目じゃなかった。マンションのエントランスであなたが待っていてくれたあの日は、未那の誕生日でした。覚えていたけど、その先は考えないようにしていた。結婚してからも、私を見ているあなたが、ときどき上の空になることがあった。上の空のとき、誰のことを考えているのか、私にはわかっていた。出ていこうと思ったこともある。でも、私が熱を出したときには、あなたは夜中に起きてお粥を作ってくれたし、薬を飲んで吐いてしまったときには、背中を優しく叩きながら、ゆっくりでいいよと言ってくれた。そういうとき、あなたが見ていたのは私だった。だから、このまま一緒に生きていこうと思った。いつか、あなたが私だけを見てくれる日が来るかもしれないから。この傘を、あなたに贈るわ。これからは雨の日、一緒にさして歩こうね。希美】久弥は便箋を胸に押し当て、クローゼットにもたれかかるようにして、床へ崩れ落ちた。結婚1年目の冬のことを思い出した。夜中に私が熱を出すと、彼は起きてお粥を作ってくれた。途中で鍋に触れて熱がり、思わず悪態をついた彼を見て、ベッドの私は声

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