死ぬ前に、一度だけやってみたかった。それで本当に死にかけるなんて、思ってもいなかった。イヒョンは木の幹に背を預け、息を呑み込んだ。吸い込んだ空気が、胸の真ん中でつかえた。咳をこらえようと口を押さえても、湿った森に乾いた音が漏れた。さっきまで聞こえていた人の声は、消えていた。「ドユン……」返事はなかった。携帯の画面には、「圏外」の文字だけが浮かんでいた。一度だけ、山に登ってみたかった。秋が終わる前に。ほかの人と同じように自分の足で歩いて、木々の間から差し込む日を見たかった。たった、それだけだったのに。イヒョンは最後の錠剤を、水も飲まずに呑み込んだ。喉に引っかかり、しばらく咳が止まらなかった。涙がにじんだ。「道さえ、見つかれば」登山靴の中で、足首がずきずき痛んだ。来た道をたどり直すのは、何度目だろう。どちらを向いても、見覚えのない景色が続いていた。霧が低く流れた。そのときだった。がさり。イヒョンは止まった。右手の茂みからだった。風かと思ったが、頭上の葉は動いていない。がさり、がさり。何かが枝を押し分けていた。イヒョンはゆっくり後ずさった。足元で小石が転がった。音は一度やみ、次にはもっと近い場所で鳴った。ぽきり。太い枝が折れた。茂みが割れた。最初に見えたのは、斧だった。刃先の水滴が落ちた。続いて大きな手と太い腕、濡れた髪の下の黒い目が現れた。男は肩で枝を押しのけ、イヒョンを見下ろした。大きすぎた。息もできず、イヒョンは後ずさった。「そこ――」男が手を伸ばした。かかとの下にあるはずの地面が、なかった。視界がひっくり返った。肩が岩にぶつかり、体が一回転した。伸ばした手でつかんだ草は、根ごと抜けた。最後に聞こえたのは、悪態だった。それから、誰かが斜面を駆け下りてくる音。* * *ムジンは斧を放り出し、倒れた人のそばに膝をついた。「聞こえますか」返事はなかった。濡れた髪が頬に貼りついていた。顔を覆う髪を払おうとして、ムジンは手を止めた。泥のついた手のひらをズボンで拭い、それから、そっと額にかかる髪を上げた。小さな顔だった。うなじも、袖からのぞく手首も、ひどく細かった。息はあった。頭や手足を確かめていると、かすかなうめきが漏れた。「動かないで」まぶたが少し持ち上がった。「……人、だった」「
Last Updated : 2026-10-18 Read more