جميع فصول : الفصل -الفصل 19

19 فصول

第11話 帰ってきて、残ったもの

「もう一度検査します」担当医が同じことを言うのは、二度目だった。イヒョンはベッドの端に座り、採血した腕を押さえていた。山を下りてから三日、検査が続いている。誰もが生きて戻ったことを喜び、そのすぐあとで、また彼をベッドに寝かせた。ムジンのシャツは椅子の背に掛かっていた。「悪くなったんですか」医師がモニターから目を上げた。「逆です。だから確かめたいんです」イヒョンの指が止まった。よい結果には、必ず条件がついた。今回も、そのあとの言葉を待った。医師は以前の記録と新しい記録を並べて表示した。「炎症反応と、いくつかの数値が下がっています。咳も減りました。ただ、病気そのものがなくなったという意味ではありません」イヒョンはうなずいた。それだけでも、十分に不思議だった。いつも告げられるのは、次の悪化に備える話ばかりだったから。* * *ドユンは廊下で待っていた。イヒョンが出てくると立ち上がり、腕を差し出した。慣れた仕草だった。イヒョンは一瞬、別の手を思い浮かべてから、その腕につかまった。「何だって?」「もう一度検査するって」「悪いほうに?」「違うって」ドユンの足が止まった。イヒョンは笑った。よい知らせを伝えることに慣れていなくて、どんな顔をすればいいかわからなかった。病室に戻ると、母が来ていた。やつれた顔で、彼の手を握った。山へ行かせたことを悔やむ言葉が、何日も繰り返されていた。今日、イヒョンは初めて違う返事をした。「あのとき山に登ったこと、後悔してません」母の手に力が入った。「どれほど危なかったか――」「わかってます。それでも、よかったんです」母は答えなかった。その沈黙の中で、イヒョンはムジンの名前を飲み込んだ。* * *午後、山で何を食べ、何を飲んだか訊きに来た人がいた。イヒョンは粥、ご飯、干した果物を挙げた。特別なものはない。最後に、茶色のお茶のことを話した。医療スタッフが、ムジンから受け取った袋を持ってきた。紙を開くと、採取した日と場所が書かれていた。短く、整った字だった。端には葉の裏を見るようにとの印もある。イヒョンは紙を引き寄せた。「これ、返してもらえますか」「記録はコピーしておきます」それを聞いて、ようやく手を離した。担当医は、薬草が原因とは断定できないので、まず種類と成分を調べる必要がある
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第12話 送れなかった言葉

ムジンは飯を焦がした。鍋の底から焦げた匂いがしていたのに、しばらくたってから火を弱めた。こびりついた飯を削ろうとして、匙が折れた。折れた柄を食卓に置いた。残った匙は一本だった。数日前まで二本の匙を交互に使っていた食卓が、急に狭く見えた。何も変わっていないのに、ないものばかり探してしまう。イヒョンが帰って、四日がたっていた。* * *ソリンは昼ごろにやって来た。通れない道を迂回して遅くなったと言いながら、袋を下ろした。ムジンの顔を見て、次の言葉を飲み込んだ。「眠れなかったんですか」「寝ました」「顔はそう言ってませんけど」ソリンは食卓のカップを二つ見た。窓辺の干した薬草と、畳んだ毛布にも順に目をやった。「遭難した人がいたんですって?」ムジンは斧の刃を拭いた。「誰から聞いたんですか」「救助隊の人が店に寄ったんです。あなたのおかげで助かったって」ソリンは笑って椅子を引いた。いつも自分が座っていた場所に、小さな木箱があった。「これは?」「足を載せていたんです」言ってから、ムジンは布を畳んだ。ソリンは箱を横へ動かした。何も言わず腰を下ろしたが、ムジンの目が一瞬、箱を追った。持ってきた食料を取り出した。「あの方から連絡がありました」ムジンの手が止まった。ソリンは何でもないふりをして、紙を差し出した。「山ではつながらないって話したら、伝えてほしいと」無事に帰りました。おかげで、ずいぶんよくなりました。イヒョン。字はソリンが書き写したものだった。名前だけで、誰の言葉かわかった。ムジンは紙を読み、畳んだ。几帳面すぎるほど、きっちりと。ソリンはその手を見て、目をそらした。* * *薬草の代金は、いつもより少なかった。大雨のせいで思うように採れなかった。ソリンは次の取引で精算すればいいと、少し多めに金を置いたが、ムジンは返した。「渡した分だけでいいです」「本当に頑固なんだから」金をしまい、ソリンは別の話を切り出した。麓で開発の説明会が開かれ、測量の範囲が上へ広がってきているという。ムジンは地図を持ってきた。「ここまで印がありました」ソリンの顔から笑みが消えた。「もう?」地図の印を、爪の先で指した。「事業者をもう少し調べてみます。採取の許可も確認し直さないと」ムジンはうなずいた。老人の遺した土地の書類を
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第13話 一杯のお茶が来たところ

「この葉で間違いありませんか」研究員が透明な袋を見せた。イヒョンはうなずいた。銀色の裏と、紫がかった茎を覚えていた。籠を挟んでムジンと向かい合った日のことも。「一緒に選んだんです」母が彼を見た。「あなたが?」「手だけでできる作業です。座ったまま」先に言い訳が出るのが嫌だった。イヒョンは言い直した。「やりたくて、やったんです」研究員は採取の時期と乾燥の状態を訊いた。覚えていることは限られていた。秋の葉、日陰、雨の降った日も書くようにと言われたこと。知らないことは、知らないと答えた。代わりに、ムジンのくれた記録をもう一度見せた。「この人に訊けばわかります」* * *担当医は、家族と別にイヒョンに会った。新しい検査でも、一部の数値はよくなっていた。薬草のおかげなのか、休養やほかの要因が働いたのか、さらに確かめる必要があるという。イヒョンは最後まで聞いた。「よくなったって、どのくらいですか」医師は簡単には答えなかった。慣れた沈黙だった。「少し、時間ができたと思ってもいいですか」「その可能性を調べています。今の段階で、どれほどとは約束できません」イヒョンはうなずいた。期間は訊くまいと思ったのに、結局、同じ質問をした。冬まで何か月あるのか、頭の中で数えていた。医師は、彼の手にある紙を見た。「その方に連絡を取ってもかまいませんか」イヒョンは喜んで答えかけ、止まった。ムジンは、自分のことをどこまで知っているだろう。咳をする人。薬が必要な人。足首にけがをした人。それくらいだろう。「僕の病状も、話すんですか」「治療に必要な情報を説明することはあります。どこまで伝えるかは、イヒョンさんと決めたいと思っています」イヒョンは紙を見下ろした。ムジンに自分で話す機会を逃してしまった。小屋で何度も口にしかけて、飲み込んだ。帰る前には、なおさら言えなかった。思い出の中まで、病気の人としてだけ残りたくなかった。「隠してほしいわけじゃありません」ゆっくりと言った。「驚かせないように、話してください」* * *ドユンが研究の依頼書を持ってきた。ムジンに薬草の追加提供を頼み、採取する環境を確認するためのものだった。必要な費用はイヒョンの家が負担することになっていた。イヒョンは金額の欄より先に、訪問の日程を見た。「誰が行く
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第14話 残された時間

見知らぬ革靴が庭に入ってきた。 ムジンは斧を置いた。先に立つ男が、丁寧に名前を確かめた。その後ろには、標本箱を持った女がいた。 「イヒョン様のご依頼で参りました」 その一言で、ムジンは戸を開けた。 * * * 管理人はまず封筒を差し出した。 ムジンは受け取ったが、すぐには開けなかった。上質な紙の感触を、手が覚えていた。封筒の紋章も知っている。 裏返して、食卓に置いた。 研究員が薬草について訊いた。ムジンはノートを持ってきて、採取した場所と日付を示した。春の葉と秋の葉を分ける理由も説明した。 女は記録を取り続けた。 「同じ場所で、さらに採れますか」 「少しなら」 「多く必要になるかもしれません」 ムジンは顔を上げた。 「どのくらい」 「まず成分の分析と、同じ結果が出るかの確認から進めます。むやみに大量に使うという意味ではありません」 それを聞いて、ムジンは次のページをめくった。 管理人は食卓や寝台を見回した。低い天井と古い椅子が気になるようだったが、顔には出さなかった。 「こんなところで、一週間も……」 ムジンの手が止まった。 研究員が先に口を開いた。 「記録がしっかり残っていますね。とても助かります」 ムジンは彼女のほうへノートを押しやった。
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第15話 山を下りる理由

「自分で行くんですか?」 ソリンは鞄とムジンを見比べた。 ムジンから店に連絡すること自体、珍しかった。尾根で途切れそうになる電話をつなぎ止め、今日中に来てほしいと言われたときは、けがでもしたのかと思った。 ところが、小屋の戸口に鞄があった。 「薬草の説明が必要です」 「記録は送ったでしょう」 「記録だけではわからないこともあります」 ソリンはそれ以上訊かなかった。ムジンは手紙を持っていた。読み返して畳んだ跡が、何重にもついている。 ソリンは鞄を開けてみた。 着替えが二組。薬草。古いノート。 「どのくらいいるつもりですか」 「わかりません」 「なら、お金を先に入れてください」 持ってきた封筒を食卓に置いた。前の取引で残っていた代金だった。今度は余分に入れなかった。ムジンが受け取らないことを知っていた。 ムジンは封筒を鞄の内側にしまった。 * * * ソリンは残った薬草を確かめた。 ムジンの留守中は湿気に気を配り、取引の日には必要な分だけ運ぶことになった。小屋の鍵を渡されると、少し妙な気分になった。 何年通っても、渡されたことのない鍵だった。 喜んでいいのかわからなかった。 「あの方、そんなに悪いんですか」 ムジンはうなずいた。 「それで、行くんですね?」
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第16話 名前を書く欄

街は、ムジンの記憶より明るかった。 バスの窓に看板と信号が重なった。人々は同じ方向を向いて立ち、信号が変わると一斉に動いた。 ムジンは紙に書かれた住所を見直した。 病院名の下に、イヒョンの名前があった。それさえ確かめればよいのに、紙を畳んでは開いた。 鞄からは、乾いた葉の匂いがした。 * * * 受付の職員が顔を上げた。 「どなたにご面会ですか」 ムジンは名前を告げた。 職員は画面を確かめ、面会の予約はあるかと訊いた。ムジンは研究員の連絡先を差し出した。 短い電話のやり取りがあった。 その間、後ろにいた人たちは鞄をよけて歩いた。枝で擦った手の甲と、古い靴がやけに目についた。 山では何でもなかったものだった。 「こちらにご記入ください」 紙が差し出された。 名前。連絡先。訪問の目的。 ムジンはペンを持った。姓を書こうとして、手が止まった。この十年、村では名前の二文字だけで足りた。 ゆっくりと、すべて書いた。 職員はその字を見て一瞬顔を上げ、また書類に目を落とした。ムジンはもうペンを置いていた。 「研究棟から担当者が参ります」 すぐにはイヒョンに会えなかった。 ムジンは、わかりましたと答えた。 * * * 研究員は彼
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第17話 薬草のことで

イヒョンが先に一歩踏み出した。 ムジンは椅子をよけて近づいた。足首を見ようと目を下げたせいで、差し出された手に気づかなかった。 小さな手が、宙で止まった。 「薬草のことで、来たんですか?」 ムジンは鞄の紐をつかんだ。 「はい」 イヒョンはゆっくり手を下ろした。 間違ってはいなかった。鞄には薬草があり、担当者にも会った。まだ説明することも残っていた。 けれど、間違っていない言葉でも人をがっかりさせるのだと、ムジンは遅れて知った。 「そうなんですね」 イヒョンは笑顔を作り直した。 「どうぞ」 * * * 病室には花が多かった。 ムジンは鞄をどこに置けばいいかわからず、持ったまま立っていた。イヒョンが椅子を一つ空けた。 「ここに」 ドユンは医療スタッフと話してくると言って出ていった。扉が閉まると、二人は急に言葉を失った。 イヒョンが先に口を開いた。 「ご飯、食べましたか?」 「まだ」 「朝から?」 ムジンは時計を見なかった。 イヒョンは呼び出しボタンへ手を伸ばしかけ、止めた。代わりに電話で軽い食事を頼んだ。ムジンが大丈夫だと言っても、聞かなかった。 「ここでは、僕が世話をします」 
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第18話 居場所

イヒョンの母は、まずムジンの靴を見た。 泥は落としてあったが、革の隙間の汚れまでは消えなかった。ムジンは足を椅子の下へ引かなかった。 「息子を助けてくださって、ありがとうございます」 丁寧な挨拶だった。 ムジンは頭を下げた。 テーブルには、薬草の確保と研究協力についての書類があった。担当者は必要な期間の費用と宿泊先を提供すると説明した。 ムジンは報酬より先に期間を訊いた。 「いつまで必要ですか」 「分析の結果によります。まず一週間ほどと考えています」 ムジンは書類を読んだ。 読む速さを見て、母の視線が再び彼の顔へ上がった。 * * * 署名の前に、ムジンは一つの項目を指した。 「ここは変えてください」 担当者が身を寄せた。 「採取量は保証できません。雨が降れば採れませんし、同じ場所でも状態は変わります」 書類に修正が入った。 ムジンは日付と範囲を確かめて署名した。母はその手を見ながら訊いた。 「以前も、こうしたお仕事を?」 「薬草を納めています」 間違った答えではなかった。 母はそれ以上訊かなかった。代わりに、イヒョンの病状に関する話は必ず医療スタッフを通してほしいと頼んだ。 「あの子、期待が大きくて」 ムジンは
last updateآخر تحديث : 2026-10-20
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第19話 敷居の高さ

家というより、歴史のある施設のように見えた。 ムジンは車窓越しに高い塀と正門を見た。紋章を刻んだ鉄の門が開く。車が中へ進む間、手のひらのまめをこすっていた。 隣でイヒョンが訊いた。 「遠いでしょう?」 ムジンは首を横に振った。 遠いのは道ではなく、高いのは敷居だった。 鞄を膝へ引き上げた。 * * * 用意された部屋は、本館の隣の別館にあった。 ベッドと机、浴室のある静かな部屋だった。管理人は必要なものがあれば呼んでほしいと言い、呼び鈴を示した。 ムジンは鳴らさなかった。 鞄を置き、まず窓を開けた。庭の向こうに本館の明かりが見える。イヒョンがどこにいるのかは、わからなかった。 ノックがした。 イヒョンだった。 「僕の部屋、あっちです」 ムジンが訊く前に、窓の外を指さした。 「明かりが三つついているところ」 「一人で歩いてきていいんですか」 「廊下ですから。崖じゃありません」 ムジンは口を閉じた。 イヒョンは部屋を見回し、椅子に座った。小屋にいたときのように袖を触り、今日の服は手に合っていると気づいたように、手を下ろした。 ムジンはその短い動きを見逃さなかった。 * * * 夕食には、家族が何人か同席した。
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