第1話 機織り娘 カンカンと隣の部屋から何台もの機《はた》を織る音が聞こえる。 だけどフィリス一人だけは、作業部屋で祈っていた。 フィリスの前には、宙を舞う無数の糸。床に敷かれた色あせた絨毯の上には、織りあがった白い布が降り積もっていた。風はないはずなのに、フィリスの銀がかった長い金の髪は揺れ、長いまつ毛の下にはエメラルド色の瞳が覗いている。日のあたらない作業部屋にずっといるせいか、肌は絹のように白かった。「フィリス! まだできないの!」「はい、ただいま」 紺色の襟の詰まったドレスに、きっちりと結い上げられた赤毛。継母の鋭い目を見るとそれだけで息がつまる。 フィリスは、できるだけ継母を視界に入れないようにした。 美しく、正確に……だけど、継母が横で急かすのもあって、フィリスは出来る限り早く作業を進めた。頭の中に図案を思い浮かべると糸たちが勝手に宙を飛び、互いが結びつくように布へと変わっていく。 作業部屋の小さな明り取り用の窓からわずかに光が差し込み、フィリスが織る真っ白な亜麻糸がきらりと光った。「できました」 宙を舞っていた糸たちが全て布へと姿を変え、ふわりと絨毯に落ちる。フィリスは、布を丁寧に作業台へ乗せた。 白くて長い布には、植物の模様が織り込まれ、角度を変えると模様が浮き上がる。 フィリスは、木製の長い定規で規定の長さを測りながら、模様に狂いがないか最終確認した。 フィリスが「大丈夫です、持っていってください」と言い終わるか終わらないうちに、継母はまるで汚いものでも追い払うようにフィリスの肩を強く押した。 満足に食べさせてもらえていないこともあり、細くなってしまったフィリスの体は、簡単に作業部屋の床に尻もちをついた 継母は、木製の巻き芯にパタンパタンとできあがった布を巻き上げ、小脇に抱えた。「本当にのろま。注文が溜まってるんだから、休まずさっさと次の注文に取り掛かりな」「……はい」 フィリスの返事を聞く前に、継母はもうすでに作業部屋からいなくなっていた。ガチャリと部屋の外から閂がかかる音だけがやけに耳に残った。 しょげたのは、あくまでもフリだ。 こうでもしておかないと継母は、尻もちをつかせるだけでは済まない意地悪をしてくることがあるのだ。 鍵がかかるとすぐにフィリスは、作業部屋の扉に耳を押し当てた。 この時がフィリ
最終更新日 : 2026-10-23 続きを読む