午後5時の相談室。蛍光灯の下、篠宮の机には書類が積み上がっていた。窓の向こうでは、夕日が千代田区のビルの間に傾いていた。紗奈が相談室のドアを開けて入った。今回で2度目の面談だった。最初の相談で所見書と陳述書の日付が一致していることを見つけたあと、篠宮は追加で検討するため、1週間ほしいと言っていた。紗奈は向かいの椅子に座った。篠宮は先の依頼人の書類の山を脇へ寄せ、引き出しから紗奈のファイルを取り出した。ファイルの表紙には『水原紗奈案件』と書かれていた。その横に新しい紙を広げた。「前回確認した内容を整理しました」篠宮がノートを開いた。万年筆で書かれた小さな文字がびっしりと並んでいた。「1つ目。診療記録上、治療経過は良好。自傷念慮なし、危険行動なし。これは監護者としての適格性を裏づけます」紗奈はうなずいた。「2つ目。所見書が1通。書式、字体、印字の濃さが、ほかの診療記録と異なる。異質な点が確認できました」「はい」「3つ目。所見書と関係者の陳述書が提出された日付が同じ。調整された可能性をうかがわせます」篠宮はノートから目を上げ、紗奈を見た。「この3点をもとに、戦略を立てる必要があります」紗奈はバッグの上に置いた手を強く握った。手のひらはじっとりと汗ばんでいた。「監護者の変更を申し立てるには、現在の養育環境に問題があることと、申立人に監護者としての適格性があること、その両方を立証しなければなりません」「両方とも、ですか?」「はい。どちらか一方だけでは足りません。以前の申立てが却下された理由も、まさにそこでした」紗奈の目が篠宮の手元へ向いた。これまで2度却下されたのは、その点が弱かったからなのだ。篠宮は紙に2つの円を描いた。左側に『養育環境の問題』、右側に『監護者としての適格性』と書いた。2つの円を双方向の矢印でつなぎ、紗奈のほうへ紙を回した。紗奈はその図を見つめた。5年間の闘いが、2つの円に整理されていた。「環境の問題については、所見書と陳述書に偽造の疑いがあると主張し、従来の審判の根拠を揺るがすんです」「陳述書の原本は、まだ確認できていないんですよね?」「閲覧を申請しました。1、2週間以内には確認できると思います」「看護師さんが保管している資料は?」「看護師さんの資料も、2週間後に受け取る約束でしたね
Última actualización : 2026-11-04 Leer más