篠宮の相談室で、6回目の面談が行われた。紗奈が入室すると、篠宮は机の上に書類とUSBメモリを出していた。シャツの袖をまくったまま、書類を整理している。「今日は、看護師さんから届いた資料についてお話しします」紗奈が椅子に座った。篠宮は書類ファイルを開いた。万年筆で『録音証拠の保全――取得経緯の整理』と、用紙の上部に書き込む。「看護師さんから送られてきた資料を整理しました。中心となるのは録音ファイルです」「録音、ですか?」「5年前、看護師さんが義母と交わした会話を録音していたそうです」紗奈の背中が、椅子の背もたれから離れた。「会話を録音していたんですか?」「はい。看護師さん自身が会話の当事者で、その場で交わした会話を録音したものです」篠宮は書類の中から経緯書の写しを取り出し、紗奈のほうへ滑らせた。看護師本人が作成したものだった。日付、場所、会話の相手、録音機器、録音した理由が記されている。「この録音は、法的に問題にならないんでしょうか?」「問題にならない場合があります。通信秘密保護法で禁じられているのは、『他人同士の会話を第三者が録音すること』です」篠宮は万年筆の先で、経緯書の一文を示した。「この場合、看護師さんは会話の当事者です。義母と直接話をしていて、その会話を録音した。会話に参加している本人が自分の会話を録音することは、第三者による盗聴には当たりません」「では、合法ということですか?」「会話の当事者による録音ですから、通信秘密保護法違反には当たりません。ただし、証拠能力については裁判所が判断します」紗奈は経緯書に目を通した。看護師の文字は小さく、慎重に書かれていた。日付は5年前。紗奈が入院していた時期と重なっている。「どうして看護師さんは録音したんでしょうか?」「経緯書に書かれています。『所見書の作成に関して義母の指示が不当だと判断し、後日問題になった場合に備えて録音した』と」紗奈は、その一文をもう一度読み返した。看護師は5年前の時点で、すでにおかしいと感じていたということだ。所見書が正規の手続きで作成されたものではないと、当時から気づいていた。紗奈が入院していたあの頃、紗奈の知らない場所で、誰かが異変を記録していた。その事実が、胸の奥を強く押した。自分は1人ではなかった。あのときも、今も。「録
Última actualización : 2026-11-04 Leer más